NASAの探査機「ニューホライズンズ」は冥王星の調査を終えた後の2019年1月1日に、地球から66億km離れた天体「ウルティマ・トゥーレ」に最接近しました。
はじめ「2014 MU69」と呼ばれていた星は、その後の公募により“愛称として”「ウルティマ・トゥーレ」という名前が与えられました。
「トゥーレ」というのは、ヨーロッパの古典文学の中で語られる“伝説の地”のことです。
そこに“究極の”という形容詞をつけた「ウルティマ・トゥーレ」という名前には、この星が、人類が到達した最も遠い星であることを強調する意味が込められています。
NASAはこのウルティマ・トゥーレが正式に別の新しい名前に変わったことを発表しました。
新たな名前にはネイティブインディアンの言葉が使われています。
ウルティマ・トゥーレ改め「アロコス」という名に正式決定
先日NASAはこの「ウルティマ・トゥーレ」が、正式な名前「Arrokoth(アロコス)」に変わったと発表しました。
「アロコス」という名前は、ニューホライズンズのチームと、星を発見したハッブル宇宙望遠鏡の運営チームがあるメリーランド州のネイティブインディアンの言葉から来ており、“空”を表しています。
星の命名に関してはIAU(国際天文学連合)の取り決めにより、発見者にその命名権が与えられています。
ニューホライズンズのチームはこの決まりを利用し、発見に携わった機関が存在しているメリーランドの地域に関連する名前をつけようと思い立ち、古くからこの地に住んでいた先住民族である「ポウハタン」の言葉から「アロコス」という名前を導きました。
名前の使用については現在のポウハタンの長老たちからも同意を得ています。
NASAの惑星科学部門のディレクターであるロリ・グレーズ氏は、ポウハタンの人々からのこの贈り物を有難く受け入れたいと話します。
アロコスという名前を授けたことは、この地域の先住民であるアルゴンキン族の強さと忍耐力を意味しています。
グレーズ氏はアロコスという名前が空という意味を含んでおり、それが宇宙の起源と、人類と天とのつながりを理解し追求する全ての人々の指針になるものだと述べています。
アロコスは「カイパーベルト天体」と呼ばれる、海王星の外側に無数にある星の一つです。
この帯状の天体群は太陽が作られてからほとんどその姿を変えていないとされていて、これらの星の姿を知ることは、太陽系や地球の成り立ちについて多くの知識をもたらす可能性があります。
緑の部分がカイパーベルト。アロコスはこの帯状の中にある天体の一つ。wikimedia
アロコスを発見した天文学者の一人であるマーク・ブーイ氏は、アロコスが惑星の形成と宇宙の起源についての手がかりを与えてくれたと語ります。
1つに統合された2つの別個の物体で構成されるこの古代の星には、地球上の生命の起源の理解に役立つ答えが潜んでいます。
ニューホライズンズがアロコスに接近し収集したデータは現在でも地球に向けて送信中であり、全てが届くのは2020年の9月頃になると見込まれています。
またニューホライズンズは次のミッションとして、別のカイパーベルト天体を観測することが検討されています。
ウルティマ・トゥーレという名前に関する論争
公募で「ウルティマ・トゥーレ」という愛称が決まったときに、一部でこの名に対し反発が起こっています。
トゥーレという言葉自体は古代文学で使われていた一般的なものですが、1918年にドイツで結成された秘密結社「トゥーレ協会」がこの言葉の持つ意味を都合よく利用し、後にヒトラー率いるナチ党の母体になったことから、星の名称として“トゥーレ”を含んだものを採用するのは適切ではないとする声が挙がりました。
しかしNASAは今回のアロコスという正式名称の決定に、ウルティマ・トゥーレの名称への批判が関係していたかどうかについて言及していません。
ニューホライズンズのチームの一員である天体物理学者のサイモン・ポーター氏によると、NASAはウルティマ・トゥーレという名前の決定時にはその言葉を非常に“ポジティブなもの”としかとらえておらず、一部の人にとって敏感な言葉であることに気づいたのは後になってからだったということです。
言葉の持つ意味にこだわるのは人間の性ですが、何度も名前を変更される星からすればはた迷惑なことでしょう。

何度も名前が変わるなんて出世魚みたいで面白いねー!

全部人間の都合だけどな。向こうにとってはどうでもいいことかもしれん
References:NASA,ScienceAlert