現在、NASAの探査機インサイトは火星で惑星内部の情報を収集しています。
先日NASAは、インサイトに搭載されている3つの機器のうちの一つで地震計の役割を持つ「SEIS」が火星内部の地震と思われる音を捉えたと発表しました。
火星は地球と違い大陸プレートがないため、地震の起きるメカニズムや伝わり方が異なります。
SEISは火星の表面に張り付いた、いわば“聴診器”として活動しています。
SEISが捉えた火星の内部の音は、地球人が初めて聞く宇宙の音です。
ほんの小さな地震の音が惑星の理解へとつながる
2018年11月の着陸以来、インサイトは搭載している機器を慎重に展開してきました。
聴診器の役割を果たす地震計、SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)は2018年12月に活動を開始し、これまでにいくつかの音を拾ってきました。
火星の内部について知ることはインサイトミッションの重要な目的であり、それは地球だけでなく太陽系の形成についてのより深い理解につながります。
SEISは今年の3月と4月に初めて複数の地震信号を捉えました。
それらの音は人の耳では聞き取ることのできないかすかなものでしたが、火星の地震――マーズクエイク――の音を確認できたことは、火星の理解を前進させる象徴的な出来事でした。
そして今回SEISは、5月と7月にも内部の音を捉えることに成功しました。
科学者ははじめ、これらの音が実際の火星の地震ではなく、機器の温度差によって生じるひずみではないかと疑っていました。
事実、これまでSEISが捉えた100以上の音のうちの7割近くが、機器のひずみか地上の風の音など地震とは関連のないものでした。
しかし5月22日(火星日173日)と7月25日(火星日235日)に観測された音は、その後の調査により火星内部で起きた地震から発せられたものだと判明しました。
下のリンクで2つの地震の音を聞くことができます。
(加工後でもかなり小さな音のためヘッドホン推奨です)
5月22日の火星内部の音
7月25日の火星内部の音
インサイトのサイエンスチームのメンバーである、インペリアルカレッジロンドンのConstantinos Charalambous氏は、SEISが送ってきた最初の音について非常に興奮したと語りました。
SEISが火星の地面に耳を当てているとき、あなたはそこで何が起きているのかを想像することができます。
研究チームはSEISが採取するすべての音が惑星内部からのものではないと知るのに多少の苦労をしています。
最初の3月と4月に捉えた地震の音以降も多くのシグナルを察知したSEISは、地球の研究者たちを忙しくさせました。
しかし調べていくうちに、音の大半はインサイトのロボットアームが風を切る音だったり、火星で頻繁に発生する嵐の音だったり、SEISの機器内部で起きる温度変化によるひずみだったりと、地震とは関連のないものがほとんどでした。
チームはその後、火星の環境条件がSEISに及ぼす影響について考慮することで、ノイズをうまく回避することができるようになりました。
(特に日中は太陽の熱で風が暖まることで夜間よりも風の干渉が強くなります)
チームは本当の地震の音ではないシグナルを「dinks and donks(ディンクとドンク)」と名付け区別しています。
※下のリンクでノイズの音を聞くことができます。(ヘッドホン推奨)
Listen to NASA’s InSight at Work on Mars
インサイトのミッションは2年にわたって主に火星内部の調査を行います。
今回の地震計であるSEISのほかに、HP³と呼ばれる内部の温度を測る機器、そしてRISEと呼ばれる、地球と通信しながら火星の軌道上の位置を随時確認しその揺れを観測する機器も活動しています。
今後もこれらの機器によって火星についての多くの新しい事実が私たちの元に届くことでしょう。
References:NASA