「パーカー・ソーラー・プローブ」が太陽風の謎の一部を解明、コロナや太陽に関する新たな発見も

宇宙
Credit: NASA

NASAの無人太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ(Parker Solar Probe)」がこれまでに取得したデータに関する研究は、いくつかの太陽についての新しい事実を明らかにしています。

2018年8月に打ち上げられたパーカー・ソーラー・プローブはこれまでで最も太陽に接近した宇宙船であり、2025年までのミッション期間中に何度も太陽に接近し様々なデータを取得することになっています。

太陽は太陽系に存在する全ての惑星に大きな影響を与えています。

特に太陽から発せられる太陽風は地球の電子機器を狂わせたり、宇宙船やそこで活動する宇宙飛行士に多大な被害を与えます。

そのため太陽風やその発生の仕組み、またそれがどのような経路を辿るかなどについて知ることは科学者たちにとっての大きな課題の一つとなっています。

 

全24回のうち3回のミッションを終えたパーカー・ソーラー・プローブは、太陽とその活動についての新たな発見を地球に送り返してきています。

NASAの科学部門の準管理者であるトーマス・ザブーケン氏は、「パーカーからの最初のデータは、私たちの星である太陽を新しく、そして驚きの方法で明らかにしている」と述べ、パーカー・ソーラー・プローブがもたらしたデータは太陽現象に関する前例のない見解につながるだろうとその成果を強調しています。

Nature誌に掲載されたパーカー・ソーラー・プローブと太陽のデータに関する研究は、主に太陽風の新たな事実に焦点を当てています。

太陽風や太陽の周りで何が起こっているのかについて知ることは、パーカー・ソーラー・プローブのような特殊な観測機がなければ実現しないことでした。

 

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ダイナミックな太陽風と“スイッチバック”

 

地球の近くで観測される太陽風は比較的均一な流れをもっています。

太陽から地球までの距離は1億5,000万キロあるため、太陽から発せられた太陽風は地球に近づくにつれ大人しいものになります。(それでも地球にとって脅威であることに変わりはありません)

パーカー・ソーラー・プローブは太陽から1,500万マイル(2,400万キロ)付近で太陽風を観測しています。

そこで得られたデータは、太陽の近くの太陽風が強力で複雑、そして不安定であることを示しました。

 

カリフォルニア大学バークレー校のスチュアート・ベイル氏は、パーカー・ソーラー・プローブに搭載された機器「FIELDS」の責任者です。

FIELDSは太陽の電場と磁場の規模や形状を測定します。

 

ベイル氏は、パーカーが送り返してきたデータを最初に見たときのことを次のように振り返ります。

 

データを見たとき、その複雑さに衝撃を受けました。1,500万マイルの距離から見た太陽風は地球の近くで見るものよりもはるかに衝動的で不安定なものでした。

 

FIELDSは太陽風が太陽の近くで逆方向に動くことを発見しています。

これは太陽の磁場の急激な反転によるものだと考えられていて、太陽風が一度逆向きに動いた後、再び前進していくという不思議な動きをしていることを表しています。

科学チームはこの現象を、険しい斜面を登る電車が使う方法から「スイッチバック」と名付けています。

 

※下の映像は太陽風のスイッチバックを示しています。放射された後一旦波打つような動きをするのがわかります。

 

Credits: NASA’s Goddard Space Flight Center/Conceptual Image Lab/Adriana Manrique Gutierrez

 

観測によると太陽風のスイッチバックは数秒から数分間続いた後すぐに元に戻ります。

しかしこの一瞬の逆方向への動きは太陽の磁場と反対の動きをしているため、これがどうして起こるのかについてはさらなる調査が必要です。

 

ミシガン大学で太陽風に関する研究を行っているジャスティン・カスパー氏は、太陽風に波がありそれが太陽に近いほど強くなることは想定していたとする一方で、それが組織的に構造化されていたことは想定外だったと話しました。

カスパー氏は、パーカーがもたらしたデータは太陽風とコロナについての理論を劇的に変えるだろうと述べています。

科学者たちはスイッチバックが、太陽風が太陽からどのように加速していくのかについての理解に役立つとしています。

 

高速回転する太陽風

 

太陽風は太陽から発せられていますが、それは生まれてすぐに一直線に外に向かって放射されているわけではありません。

パーカー・ソーラー・プローブは、太陽風が発生した後しばらくの間は太陽と一緒になって回転していることを明らかにしています。

観測機は太陽から2,000万マイル(3,200万キロ)地点で太陽風の高速回転を検出し、それは科学者が考えていた速度よりもかなり早いものでした。

太陽風の観測はこれまで地球に近い地点でしか行われていなかったため、科学者の理論を裏付けるためにはパーカー・ソーラー・プローブのデータは欠かせないものです。

 

ジャスティン・カスパー氏は太陽風の回転速度について次のように述べます。

 

最初の遭遇で見られた太陽風の回転は本当に驚きでした。これは標準モデルで予測された速度のほぼ10倍の速さです。

 

太陽風の回転についての知識は、原始惑星の周囲にできたリングや、若い星の周囲のガスや塵などでできたリングの形成について理解するのを助けます。

 

太陽の近くにあるダストのないゾーン

 

宇宙には無数のかつて星だった物質が漂っています。

それらのダスト(塵)は太陽の周囲にも存在していると考えられていますが、一部の科学者はそれらが太陽の持つ熱によって消滅し、太陽付近の一定範囲にはダストが一つも存在しない領域があると予測しています。

しかしこれもそこに訪れることでしか確認することはできません。

 

パーカー・ソーラー・プローブに搭載された「WISPR」と呼ばれるイメージング機器は、太陽から700万マイル(1,120万キロ)以内の領域にはダストが少ないことを発見しています。

 

※下の画像は太陽に近い領域のダストが少ないことを表しています。

 

Credits: NASA’s Goddard Space Flight Center/Scott Wiessinger

 

ダストは太陽に近づくにつれ薄くなっていき、WISPRの測定限界である太陽から400万マイル(640万キロ)地点ではダストの量がかなり減少していることが示されました。

WISPRの主任研究者である海軍研究所のラス・ハワード氏は、「このダストの存在しないゾーンについては数十年前から予測されていたが、これまで見たものはいなかった」と述べています。

科学者は太陽から200~300万マイル地点にはダストがまったく存在していないと考えており、パーカーの今後の太陽接近で得られるデータがそれを証明することに期待をかけています。

 

コロナと太陽風の新たな事実

 

この他にもパーカー・ソーラー・プローブは、太陽から発せられる高エネルギーの粒子の嵐と、コロナの大量放出に関する新たな事実も発見しています。

電子とイオンの小さな粒子は太陽の活動によって加速し、それはエネルギー粒子の嵐となって太陽の外へ向かって放出されます。

このエネルギーの粒子は30分以内に地球に到着し、地球上の送電線や宇宙船の電子機器、また宇宙飛行士の健康に大きな影響を及ぼします。

これらの高エネルギーの粒子がどのように加速するのかを知るには、できるだけ太陽の近くで観測する必要があります。

 

プリンストン大学が率いるパーカー・ソーラー・プローブの「ISʘIS」と呼ばれる機器は、これまでに見たことのないエネルギー粒子のイベントを測定しました。

ISʘISは太陽から発せられる粒子バーストの中に、特に重い元素が含まれているパターンがあることを発見しています。

これは太陽風の種類が一つではないことを示唆するものです。

ISʘISの主任研究員であるデイビッド・マッコマス氏は、「これらの測定結果は太陽エネルギー粒子の発生源、加速、輸送を解明し、将来的に衛星と宇宙飛行士をよりよく保護するのに役立つ」と語っています。

ISʘISはさらに、太陽から生じるエネルギー粒子のイベントの中には、規模が小さすぎて地球には届かない(地球からは観測できない)ものがあることも発見しています。

 

またパーカー・ソーラー・プローブに搭載されたWISPRは太陽のコロナについても観測しています。

データはコロナの質量や動きについての新たな事実――コロナの動きは従来考えられていたような規則的なものではない――を明らかにしました。

WISPRの主任研究員ラス・ハワード氏は「コロナの構造について知ることは太陽風がどのように移動しているのかについてのモデリングの作成に役立つ」と語っています。

 

パーカー・ソーラー・プローブは残り21のミッションを残しており、次第に太陽への距離を縮めています。

最終的には383万マイル(612万キロ)にまで近づくことで、さらなる太陽の秘密を解き明かす予定です。

 

 

 


 

NASAの太陽物理学の部長である二コラ・フォックス氏は太陽のことを、「私たちが唯一詳しく調べることのできる星」と語っています。

そして、パーカー・ソーラー・プローブが地球や宇宙全体の星に対する理解に革命をもたらしているとしてその働きを称賛しました。

 

灼熱の世界に挑み続けるパーカー・ソーラー・プローブは、今後も私たちにとって欠くことのできない星である太陽の秘密を次々と明らかにしていくことでしょう。

 


 

 

かなで
かなで

そこにあるのが当たり前すぎて存在を忘れちゃうけど、太陽は地球や人類にとってなくてはならない星なんだよねー

せつな
せつな

人間が到達できない地点で得られる知識は貴重……

ふうか
ふうか

パーカー・ソーラー・プローブは2025年まで活動する予定だから、これからも太陽の新しい事実がどんどん明らかになっていくだろう

 

References:NASA