NASAは火星探査機「インサイト」が集めたデータの分析結果をまとめ、その結果を科学誌Nature GeoscienceとNature Communicationsに発表しました。
論文はインサイトの着陸以降の活動から得られたデータを分析した最初のもので、特に火星の地震活動に関する分析結果は、従来の前提を大きく揺るがすものです。
インサイトは2018年11月26日に火星のエリシウム平原に着陸し、搭載された様々な機器を使って火星の内部の状態を観測しています。
火星の地震はおそらくマグマによるもの
インサイトは観測開始から10カ月で174の地震を観測し、最終的には450以上の地震波を捉えました。
最も大きな地震はマグニチュード4でした。
地震のいくつかはインサイトが着陸した地点から東に994マイル(約1,590キロ)離れた場所にある、ケルベロス地溝帯(Cerberus Fossae)と呼ばれる断層帯で起きたと推定されています。
火星には地球のようなプレート構造がありませんが、地震を引き起こす可能性のある火山活動領域がいくつかありケルベロス地溝帯はそのうちの一つです。
ケルベロス地溝帯 Credits: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona
ケルベロス地溝帯は過去1,000万年以内に溶岩が流れていた断層帯で、地質学的には「若い」地形であり、この場所での地震波の確認は、火星の地震がマグマによるものである可能性を示唆します。
科学者は地震がどのようなメカニズムで発生するのかを、通過する物質の影響を受ける地震波を通して理解しようとします。
現時点ではインサイトの地震計「SEIS-Seismic Experiment for Interior Structure」が計測した地震波によって、火星の地殻の上部にあたる、地表から6マイル(9.6キロメートル)の部分が、地質の活動や隕石の衝突などによって破壊された状態にあることがわかっています。
インサイトミッションの主任研究員であるJPL(ジェット推進研究所)のBruce Banerdt氏は、「私たちはついに、火星が地震的に活発な惑星であることを初めて明らかにした」と述べ、地球ほどではないものの、火星の地震活動は、アポロ計画中に記録された月での地震活動よりも活発であると説明しています。
Banerdt氏はまた、これまでに記録された地震波は全て小規模なものであったとし、大規模な地震を計測することがミッションの次の目標であると話しました。
地下から想定よりも10倍強い磁場を観測
インサイトは磁場の観測もしています。
過去の火星探査の結果からは、火星には地球のような磁場が存在していないことが示されています。
火星の磁場は数十億年前に消失したため、地球のように太陽風の影響を防ぐことができず、現在の火星の大気は非常に薄いままとなっています。
インサイトは磁力計から、当初の想定よりも10倍強い磁場を観測し、それが地下200フィート(60メートル)地点から来ていることを確認しました。
インサイトの着陸した地域の表面にある岩は磁化されるには若すぎるため、磁気は、火星に磁場が存在していたときの古代の岩からのものである可能性があります。
また観測では磁場の強さが昼と夜で異なることもわかり、科学者は、火星での磁場がどのようにして形成されるのかについて引き続き分析を続けたいとしています。
インサイトは火星時間の1年間(約687日)にわたって調査を続け、今後も火星の内部の秘密を明らかにしていきます。
インサイトは地表に吹く風や惑星全体の揺れも観測しているぞ
火星は岩石惑星だから、観測結果は地球にとっても役に立つ可能性があるよね
References: NASA,The Guardian