今から30年前の1989年8月25日、NASAの宇宙船ボイジャー2号は、太陽系の最も端にある第8の惑星、海王星に初めて最接近しました。
1977年8月20日に地球を飛び立ったボイジャー2号は、木星、土星、天王星、そして海王星と、火星よりも外側に位置する巨大惑星を立て続けに観測する「グランドツアー」と呼ばれる惑星探査ミッションを行い、様々な貴重なデータを地球に送り返しています。
天王星と海王星に訪れたことのある宇宙船は現在でもボイジャー2号のみであり、接近時に残した多くの写真や観測データは太陽系を知るうえでの貴重な資料となっています。
ボイジャープロジェクトの科学者であるエド・ストーン氏は「ボイジャーの惑星探査ミッションは、科学が何であるのかを一般に示す機会でした」と述べ、ボイジャー2号から送られてくるデータから毎日のように新しいことを学んだと当時を述懐しました。
ボイジャー2号はそれまで想像の世界でしかなかった太陽系の端の世界を初めて調査し鮮明な映像を残したことでその後の宇宙科学に大きな貢献を果たしました。
打ち上げから42年、ボイジャー2号は今も宇宙を旅し続けています。
海王星とトリトンでの新発見、そして新たなミッションへ
ボイジャー2号が撮影した海王星の画像 Credits: NASA/JPL-Caltech
ボイジャー2号(そして兄弟機であるボイジャー1号)が地球に送り返してくる画像や映像は、科学者だけでなく多くの人々を夢中にさせました。
しかし当時は現在のようにインターネットがなかったため、宇宙船から送られてくるデータを世界中で迅速に共有することができませんでした。(1989年当時、ボイジャー2号からのデータが地球に届くまでには4時間がかかりました)
そこでボイジャーのミッションチームは人々の関心に応えるため、1989年の8月21日から29日にかけて毎日記者会見を開き宇宙船からのデータを世界に向けて公開しました。
ボイジャー2号が海王星に最接近する前日――1989年8月24日――には「ボイジャーオールナイト」と呼ばれる特別プログラムが準備され、NASAのジェット推進研究所で行われた記念式典では、ボイジャー計画に携わったカール・セーガンと歌手のチャック・ベリーがヒット曲「ジョニー・B・グッド」を演奏しました。
(「ジョニー・B・グッド」はボイジャー2号とその兄弟機であるボイジャー1号に搭載された「ゴールデンレコード」に収録されており、いつの日か宇宙の誰かが耳にするのを待っています)
ボイジャーオールナイトでのチャック・ベリー(左)とカール・セーガン(右) Credits: NASA/JPL-Caltech
ボイジャー2号が写した海王星の姿は、惑星にメタンが含まれていること(青く見える理由)や、木星の大赤斑に似た「グレートダークスポット(大暗斑)」が存在することなどを明らかにしました。
またボイジャー2号は、海王星に土星のものに似た4つの環が存在することや、新しい6つの衛星があることも発見しています。
海王星のリング Credits: NASA/JPL-Caltech
ボイジャー2号は海王星の衛星であるトリトンにも最接近しています。
そこではトリトンが地質学的に非常に若いことや活発な間欠泉が存在すること、そして薄いながらも大気が存在していることなどを発見し、最低表面温度がマイナス235度であるトリトンがこれまで考えられていたような単純な氷の衛星ではないことを突き止めました。
ボイジャー2号は惑星の並びが一直線に並ぶ時期を利用した「グランドツアー」を行い、それまでどの宇宙船も到達できなかった海王星までの旅を成し遂げました。
1979年に木星、81年に土星、86年に天王星、そして89年の海王星と4つの巨大な惑星の探査を無事に終えたボイジャー2号は、その後NASAにより新しいミッション「星間空間ミッション」を与えられます。
昨年の12月には太陽圏(太陽からのエネルギーが届く範囲)を超えて、パイオニア10号と11号、そしてボイジャー1号に次ぐ4機目となる星間空間に突入しました。
宇宙の果てからやってくる高レベルの放射線の中をひたすら前進しつづけるボイジャー2号は、現在でも宇宙に関する未知のデータを地球に送り続けています。
ボイジャーミッションに関わったエド・ストーン氏は「毎日彼らは他の宇宙船が行ったことのない場所を旅しています」と語りました。
ボイジャー2号に積まれた原子力電池は毎年4ワットずつ減少していますが、NASAによれば2025年頃までは稼働し地球との交信が可能だということです。
ボイジャー2号はこれからも、宇宙の謎について私たちにたくさんの驚きを届けてくれることでしょう。
References:NASA