現在発売されるゲームの多くが続編ものです。
開発者には前作という下地があり、またファンもキャラクターや物語について知識を持っているため、続編の制作は双方にとってよいことばかりのように思えます。
しかしナンバリングが増えていくに従い、ファンは無意識に、新しいゲームが前作よりも大規模になることを望みます。
一方開発側はそれに応えようと努力するものの、全ての会社が資金や人的資源の面で対応できるわけではありません。
ファンが期待外れの新作を手にした場合、二度とそのシリーズに戻ってこなくなる可能性があります。
ゲーム開発には多額の資金と時間、そしてスペシャリストが必要ですが、ファンの求めるもの全てに応えることのできる開発会社はそれほど多くはありません。
新作へのファンの期待に応えようとして、手を広げすぎたことを反省している会社があります。
「Sniper Ghost Warrior 3(SGW3)」を制作したポーランドのゲーム開発会社、CI Gamesです。
CI Gamesは、11月22日に新作「Sniper Ghost Warrior Contracts」をリリースしています。
しかしこのゲームは、前作から大幅に規模を縮小せざるを得ませんでした。
その理由は前作「SGW3」の、「AAAゲーム」に対する間違った考え方にありました。
AAAゲームを真似しても売れるとは限らない
© 2019 CI Games S.A., all rights reserved.
CI GamesのCEO、マレク・ティミンスキ(MarekTymiński)氏は、最新作である「Sniper Ghost Warrior Contracts」が、前作「SGW3」の反省の元に作られたことを明かしています。
「SGW3」はCI Gamesがこれまで作ってきたゲームの中で最も野心的でした。
現在AAAゲームの多くが採用している「オープンワールド」を取り入れ、プレイヤーである暗殺者に自由度を与えるという大胆なシステム変更を行いました。
満を持して発売した「SGW3」でしたが、3カ月後の売り上げは会社が予想していたものとはほど遠いものでした。
ティミンスキ氏は、現時点でこの作品の売り上げが150万本に近づいていると話していますが、もちろんこの本数では会社を助けるレベルには達しません。
「SGW3」の発売後、会社の規模の縮小を余儀なくされたことでティミンスキ氏は、AAAゲームを狙うのが“大きな間違い”であることを認めざるを得ませんでした。
新作「Sniper Ghost Warrior Contracts」はAAAタイトルではなく“AA”タイトルです。
ティミンスキ氏は今作について次のように話します。
私たちはSGW3が抱えていたほとんどの問題を解決しましたが、主要なゲームとの競争は依然難しく、(対抗するためには)大規模なチームが必要です。
「SGW Contracts」は、前作で採用したオープンワールドを捨て、小規模なゲーム内世界で暗殺依頼を達成していくというサンドボックス型のマップを採用しています。
これは自由度の大幅な低下を表す変更のように見えます。
しかしゲームは、依頼を受ける順番を変えることによりその後の展開が変化するといったような、別の軸での自由度を取り入れています。
ティミンスキ氏は、「SGW Contracts」は“まだ”大きなゲームであると説明し、シナリオを実行する順番を選択できることで自由度を保っていることを強調しました。
CI Gamesが前作の失敗から学んだことは、AAAゲームの真似をしても売り上げにはつながらないということです。
現在のゲーム市場は、毎週のようにAAA作品が発売され、それ以外のゲームも数えきれないほど棚に並んではすぐに消えていくという、速すぎる展開が特徴となっています。
例え多額の資金をつぎ込んだ素晴らしいゲームであっても、次の週にはプレイヤーの頭の中からその存在が消えてしまうことがありうる世界です。
CI Gamesは新作でAAAゲームの後追いをするのをやめ、スナイパーゲームとして特化していく道を選びました。
ティミンスキ氏は「SGW Contracts」が、新しいスナイピングシステムや、アップグレードされたレンダリングを備えたエンジン、優れた弾丸カメラ、高度なAIなどを備えることで、より改善されたゲームになったと自負しています。
また似たようなゲームである、IO Interactiveの「ヒットマン」シリーズや、Rebellionの「スナイパーエリート」などが新作に影響を与えてはおらず、主に前作である「SGW3」の経験が生かされていることを強調しました。
ティミンスキ氏は、ファンが「SGW Contracts」を「これが以前から求めていたものだ」と言ってくれるのを願っている、と話しています。
AAAではなくAAに留まるという選択
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CI Gamesの次のゲームについて聞かれたCEOは、「AAセグメントは成長しており、多くの可能性を秘めている」と話し、今後もAAAゲームを目指すのではなく、AAゲームに留まると答えました。
そしてスタジオの目標は素晴らしいゲームを作ることにあり、チームの規模を考慮して制御できる範囲でそれを行いたいと話しています。
現在EAやUBIなどの主要なAAAパブリッシャーは、ライブサービスゲームやオンライン環境の拡充に力を入れており、彼らの作るタイトルに中小規模の開発会社が立ち向かうことは得策ではない状況ができつつあります。
プレイヤー側は、前作よりもリッチで時間をかけることのできるゲームを新作に期待するだけですが、作る側からすれば、高騰する開発費を賄いつつ大規模なゲームを作り続けることは、大きなリスクをはらんだ危険な選択になります。
ティミンスキ氏は「現在のフルプライスゲームに対する人々の期待のレベルは非常に高いため、チャンスを得るには大きな予算が必要です」と述べています。
開発会社はこれからのゲーム制作において、より一層身の丈にあった開発規模を選択する必要があります。
さもなければ、たった一つの間違いが会社の存続を不可能なものにしてしまうでしょう。
「Sniper Ghost Warrior Contracts」は現在、PC、PlayStation4、XboxOneで発売中です。(いずれも海外版のみ)
2020年の2月27日にはPlayStation4で日本語版が発売される予定です。
最近のゲームが皆同じように見えるのも、AAA作品の影響なのかな
ゲーム開発も商売だからな。長いものに巻かれるのも仕方ない
開発者には本当に作りたいものを作って頂きたい……ファンはその情熱を見逃さないはずだから……
References: gamesindustry.biz