マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏は、新型コロナウイルスの蔓延が自身と関係があるとする陰謀論に巻き込まれています。
2015年、バンクーバーでのTED講演のなかでゲイツ氏は、「今後数十年で1,000万人以上の人間が命を失うとしたら、それは戦争ではなく感染力の高いウイルスである可能性が高い」と聴衆に語りました。
この時ほとんどの人は、ゲイツ氏の言葉を真剣には受け止めませんでした。
しかし現在この講演の映像は、YouTubeで3,000万回近く再生されており、背景には人々のゲイツ氏への猜疑心、すなわち彼が今回のパンデミックを引き起こしたのではないかという考えがあります。
ゲイツ氏への陰謀論は今回が初めてではなく、過去には人類を間引くためのワクチンを開発しているだとか、体にマイクロチップを埋め込むことを画策しているなどといった、荒唐無稽ともいえる主張が数多く存在しました。
陰謀論は大きな力を持っている人につきまとう
オンライン上の偽の情報や誤解などと戦うプロジェクトである「First Draft」のロリー・スミス氏は、「ビル・ゲイツには無数の陰謀説があり、彼はこの種のブードゥー人形である」と述べ、その理由として、ゲイツ氏が10年以上にわたって公衆衛生の顔であることを挙げました。
(ブードゥー人形は日本のワラ人形と同じように扱われることがあります)
ゲイツ氏と妻のメリンダ氏の財団は、毎年ワクチンの開発や発展途上国の衛生状態の向上などに多額の寄付を行っており、今回の新型コロナウイルスのワクチン開発にも協力しています。
ニューヨーク・タイムズの調査によると、ゲイツ氏とウイルスを関連づける理論は、今年の2月から4月にかけて急増し、テレビとSNSではこれに関連する言及が120万回もありました。
コンテンツの多くはFacebookに投稿された後何百万回も共有されており、またFirst Draftの調査では、ショートビデオアプリのTikTokが、陰謀論の拡散に大きな役割を果たしたことが確認されています。
南アフリカの病院でHIVと結核について話し合うゲイツ氏 (The Gates Notes LLC)
ゲイツ氏が世界を陥れようとしているという陰謀論は、多くの人の関心を集めています。
これは、彼がとてつもない金持ちであることと無関係ではありません。
米国マイアミ大学の政治学者であり、陰謀論に関する本の著者でもあるジョセフ・ウシンスキー教授は、「陰謀論は常に、大きな力を持っている人が、人々に対して恐ろしいことをするという構図がある」と説明し、「ビル・ゲイツ以前には、ジョージ・ソロスやコーク兄弟、そしてロスチャイルドとロックフェラーが陰謀論の標的だった」と述べています。
教授は陰謀論について、大部分はすぐに消滅するが中には生き残るものもあり、それは大企業や金持ちを悪役に設定したものであると付け加えています。
陰謀論はインターネットによってさらに拡大している
よく考えればありえないことでも、インターネットに広まると、あたかも真実であるかのような錯覚を起こします。
First Draftのスミス氏は、「インターネット以前の陰謀論は自己完結的であり、限られたコミュニティにしか存在しなかったが、インターネットの使用によって、政治の境界を越えコミュニティ間を移動できるようになった」と述べています。
またスミス氏は、世界的なパンデミックにより人々が心理的に脆弱になっていたことも、陰謀論の拡大に拍車をかけたと指摘しています。
新型コロナウイルスとの戦いのためにすでに3億ドルを投じているビル&メリンダ・ゲイツ財団は、オンラインで拡散する陰謀論によって、公衆衛生に悪影響が及ばないかどうかを心配しています。
財団はBBCに対し、「世界が前例のない危機に直面し、私たち全員が協力しなければならないときに、誤った情報を広めている人々がいるのは悲しいことだ」と述べ、今できる最善のことは事実を広めることであると強調しました。
また陰謀論の的になっているゲイツ氏は、「狂気が多くて困っている。開発したワクチンは人口の80%に接種してもらいたいと考えているが、陰謀だと聞いてワクチンを拒む人がでれば、この病気は人々を殺し続けることになる」と語っています。
とてつもない金持ちが攻撃の対象になるのは仕方のない部分もあるな
インターネット経由の情報については特に事実を確認することが大事だね
References: BBC