米国カリフォルニア大学の研究チームは、言語障害をもつ人たちにとって有益なツールとなりうる「脳インプラント」技術について実験を行っています。
様々な病気が言語障害と関連しており、これらの患者は他人とのコミュニケーションに大変な苦労をしています。
文章だけで伝える場合、感情や抑揚が表現できず、思惑とは異なる解釈をされるおそれがあります。
また手話は相手が文法を理解していなければ伝わりません。
今回行われた研究は、脳内の神経活動を読み取り機械音声として再現するもので、会話が困難な人のための、新しいコミュニケーションツールの開発につながります。
人間の発声にかなり近づいた脳インプラントによる機械音声
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経外科の教授であるエドワード・チャン氏たちの研究チームは、てんかんで脳手術を受けている5人の患者に協力してもらい、会話の際の脳の動きがどのように変化しているのかを測定しています。
患者には、脳の活動を記録するための電極が埋め込まれ、舌、唇、あご、喉頭といった会話の際に動く部分にはセンサーが取りつけられました。
彼らは数百の単語と文、そして「眠れる森の美女」などの有名な古典からいくつかの節を朗読することを求められました。
その後研究者は蓄積されたデータから、それぞれの単語が脳のどの部分に強く反応するのかを特定するアルゴリズムを作成し、それを元にした機械音声を、1700人以上のボランティアに聞いてもらいました。
過去の研究では、機械音声を作るには脳波のパターンだけでは不十分であることが示されています。
今回の実験では、単語を発した際の脳波だけでなく、連動する口や舌の動きについても記録をとっています。
これにより、これまで不安定だった機械音声に、正確性と人間らしさが加わりました。
(機械音声と人間の発声との比較)
ボランティアの約70%は、新しい技術によって作られた機械音声の内容を正しく理解できました。
チャン教授は結果について、「この研究は、個人の脳の活動に基づいて音声を作成できた初めての例だ」と述べ、また使用された技術が既に手に入るものであることから、「臨床的に実行可能な装置を作れることも証明している」と付け加えています。
声を出さずに会話ができる可能性を示した今回の研究は、ある不安も生みます。
それは悪意のある使用者によって、脳内の考えを読まれてしまうのではないか?というものです。
これについてチャン教授は、「それは非常に困難で挑戦的な問題である」と述べ、現時点では難しいと説明しました。
実験では、脳インプラントにつながれた被験者に何かを考えてもらい、それをコンピューターを介して理解しようとしましたが、意味のある文章に変換することができませんでした。
チャン教授は、「この技術は、人間の実際の発言に焦点を当てている」と述べています。
研究結果はNatureに掲載されました。
実用化されるにはまだまだ研究が必要みたいだよ
他の言語だと結果が違ってくる可能性もあるな
References: BBC,ScienceAlert
(2019年4月の記事に加筆、修正を加えました)