1986年4月26日の午前1時23分、キエフの北110キロにあるチェルノブイリ原子力発電所の4号炉が爆発しました。
この世界最悪の原発事故は、大量の放射性物質を拡散させ、近郊にあった労働者の町をゴーストタウンにしました。
事故当時の作業では33人が命を落とし、原子炉建屋が厚いコンクリートの石棺で覆われてからも、周辺地域のみならず世界各地で、事故に関連するとみられる健康被害が報告されました。
ウクライナ政府は2000年代に入り、老朽化した石棺に代わる新たな放射線封じ込め作戦を始め、2019年には、建屋全体を覆う巨大なアーチ型のシェルター(Chernobyl New Safe Confinement)が完成しました。
これまで原発とその周辺地域への訪問は、一部の関係者を除き禁止されてきましたが、ウクライナは2010年に、放射線レベルが一定以下になったとして、立ち入りを許可する決定を下しました。
それ以降、政府は原発を観光資源にするべく様々な施策を行っており、事故から35年たった2021年には、世界遺産に登録するための準備も始めました。
チェルノブイリ原発を世界遺産に登録する取り組み
チェルノブイリ原発の周囲30kmは、依然立ち入り禁止区域であり、放射線レベルが高い場所も残っています。
キエフからのツアー客は、自己責任であることを受け入れたうえで、原発の見学にやってきます。
ウクライナは2016年頃から、原発周辺の観光地化を進めており、2019年にはHBO制作のテレビドラマ「チェルノブイリ」の人気もあり、近郊の町プリピャチには12万人もの観光客が訪れました。
プリピャチに残る観覧車 (Yves Alarie/Unsplash)
放棄されたプール (Yves Alarie/Unsplash)
ユネスコの規定では、世界遺産に登録される土地や建物は、まずそれ自体が、その国の文化的・歴史的遺産になっている必要があります。
そこでウクライナは最近になり、1970年代に建設された巨大な軍事用レーダーなど、原発周辺地域とそこに残されているものを、国の重要文化財に加える作業を始めました。
ウクライナの文化大臣オレクサンドル・トカチェンコ氏は、「チェルノブイリをユネスコの世界遺産に登録することは、この場所を全人類が興味を持つユニークな目的地とするための、最初の重要なステップです。チェルノブイリの重要性はウクライナの国境をはるかに越えたものであり、記念としてだけでなく、歴史や人々の権利にも関わるものです」と述べています。
廃墟となったプリピャチの町。奥の白いシェルターが事故を起こした4号炉 (Jorge Franganillo/Flickr)
チェルノブイリ原発のすぐ近くにあったプリピャチは、当時5万人が住む労働者の町でした。
住民は事故の翌日に退去させられ、以後この町は、見捨てられた廃墟となりました。
ソ連時代の文化を色濃く残す建物や遊園地など、プリピャチの持つ印象的で物悲しいイメージは、ドラマやゲームといった創作物にも大きな影響を与えています。
現在ツアー客の多くはプリピャチを訪れており、それに合わせウクライナ当局は、廃墟内の移動を容易にするための道づくりを始めています。
ウクライナの環境副大臣ボーダン・ボルコフスキー氏は、「ここは悲劇と記憶の場所であると同時に、世界的な大災害による結果を、人間がどのようにして克服したのかを見れる場所でもあります」と述べ、観光の奨励は、この地が「排除されたゾーン」ではなく、「発展と再生のゾーン」であったという新しい物語につながると強調しています。
原発周辺の地域では、人間がいなくなったことで、野生の動物が闊歩するようになりました。
現在立ち入り禁止区域には、クマ、バイソン、オオカミ、オオヤマネコ、野生の馬のほか、何十種類もの鳥類が生息しています。
事故により放出された放射性物質は人体にとっては有害ですが、動物や植物にどのような影響を与えているのかについては、科学者によって意見が分かれています。
プリピャチに生息するオオカミ (Jorge Fernández Salas/Unsplash)
現地で調査をしている科学者たちは、野生動物が持つ放射線への適応力について学ぼうとしています。
20年前から区域内を観察している生物学者のデニス・ヴィシュネフスキー氏は、「ここは巨大な領域であり、自然の年代記が保管されている場所です。立ち入り禁止区域は呪いではなく、私たちの資源です」と述べています。
チェルノブイリ原発は、現在でも廃炉作業が行われており、新しいシェルターに覆われた4号炉では、ロボットが放射性物質を含むがれきを処理しています。
ボルコフスキー氏によると、4つの原子炉は、2064年までに全て解体される予定です。

原発から30Km圏内は立ち入り禁止区域だけど、今も100人以上の人が暮らしてるんだって

世界遺産になれば、事故を知らない世代にも悲劇を伝えていける……
References: AP News,The Guardian