アメリカでは年間10万人以上が行方不明になり、そのうちの一定数は永遠に家族のもとに帰ってきません。
行方不明者の捜索は広い国土をもつアメリカでは特に困難であり、森林などに迷い込んだ場合、助けることはおろか発見すらままならないのが現状です。
ヘリコプターやドローンが使われることもありますが、それでも行方不明者の全てを見つけることはできません。
テネシー大学の研究者は、行方不明者を発見する方法として、「植物の観察」を提案しています。
この方法は残念ながら、生きている行方不明者の救助にはつながりません。
しかし彼らがどこで人生を終えたのかを特定し、それを大切な家族に知らせることができます。
人間が亡くなった場所の植物は色が変わる
テネシー大学の植物学者であるニール・スチュワート氏は、法医学者が遺体の分解について研究を行っている「ボディファーム (死体農場)」を訪れたときに、行方不明者を捜索する新しいアイデアを思いつきました。
ボディファームは献体された遺体を自然環境に放置しその分解過程を調べる施設で、欧米やオーストラリアなどでは、大学内や非公開のエリアに設置されています。
遺体の分解過程に関する知識は、殺人事件が起きた時刻や、被害にあった場所の特定などに役立ちます。
植物学者であるスチュワート氏が着目したのは、人間に約2.6kg含まれている窒素です。
人間が分解されると、窒素をはじめとした様々な化学物質が周囲の土壌や植物に取り込まれていきます。
窒素は植物の緑色の元であるクロロフィルの生産に関わっているため、行方不明者が息絶えた場所の植物は、他の場所の植物と比べて色あいが変化している可能性があります。
これは容易に入り込めない森の奥であっても、ドローンなどによる上空からの観察によって、行方不明者の発見につなげられることを意味します。
スチュワート氏は、「植物は多くの窒素に対しクロロフィルの生産で反応する」と説明し、「一部の種はストレスを受けて葉を失ったり黄色や赤に変色するかもしれないが、そうした影響は葉に吸収される光を測定することで確認できる」と述べています。
一人の人間の遺体が、周囲の植物にどれだけの影響を与えるのかははっきりしていません。
スチュワート氏は、3メートル四方の土壌と植物に栄養素が行き渡り、窒素については、自然で得られる量の50倍が供給されると見積もっています。
窒素以外にも、例えば行方不明者が喫煙者であった場合、タバコに含まれるカドミウムによって植物の色が変わる可能性があります。
しかし人間を形作っている化学物質は多種多様であり、また遺体の分解速度は季節や環境によっても異なります。
現状、「植物の色の変化から遺体の場所を特定する」という方法が、行方不明者の捜索に貢献できるかどうかは未知数です。
スチュワート氏は、「人間は独特の痕跡を残す」と述べ、それらは特徴がわかっている人々を識別するのに役立つと強調しています。
テネシー大学の研究チームは今年の8月、ボディファームに3人の献体を配置し観察を始めました。
今後1年間、遺体が土壌や植物に与える影響について分析が行われます。
論文はTrends in Plant Scienceに掲載されました。

動物が死んだ場合も植物の色が変わる可能性があるから区別するのが大変みたいだよ

この手法で発見される人はみんな他界しているというのが悲しい……
References: The Guardian,ScienceAlert