健康志向の高まりや、畜産のプロセスで発生する温室効果ガスへの懸念などを受け誕生した植物性の肉、いわゆるフェイクミートは、従来の食肉の中に割って入るほどの勢いで市場に浸透し始めています。
見た目も味もほとんど変わらないことは、消費者の選択肢を広げることにつながり、今では多くのフェイクミートを使った商品が登場しています。
こうした動きに対し畜産関係者は、ただ指をくわえて傍観を決め込んでいるわけでもないようです。
畜産業界に関するニュースを提供しているTri-State Livestock Newsは、バーガーキングが販売しているフェイクミートを使った商品、「Impossible Whopper(インポッシブル・ワッパー)」を食べると体に変化が起きるかもしれないとする記事を載せ、物議をかもしています。
記事の執筆者は、インポッシブル・ワッパーが“男性の胸を大きくする”と主張しています。
フェイクミートに含まれるイソフラボンが胸を大きくする?
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記事の執筆者であるサウスダコタ州の医師ジェームズ・スタングル博士は、インポッシブル・ワッパーの人工肉に含まれている大豆の成分である「イソフラボン」に着目しています。
博士によると、インポッシブル・ワッパーには、一般的なワッパー(バーガーキングの主力商品であり従来の肉を使用した製品)の1800万倍の「エストロゲン」が含まれています。
エストロゲンは哺乳動物のもつホルモンの一つで、いわゆる“女性ホルモン”として知られています。
エストロゲンは女性らしい体の作りや生理周期などと関連があります。
このエストロゲンによく似た性質を持つのが、大豆に含まれているイソフラボンです。
男性がエストロゲンを取り入れた結果、乳房が女性のように大きくなる事例が過去に報告されているため、似たような働きをもつイソフラボンの大量摂取に関して、その危険性を指摘する声があるのは事実です。
しかし広範囲に行われたいくつもの研究は、イソフラボンの影響力が女性ホルモンに比べてはるかに弱いものであるとしています。
イソフラボンの摂取が男性を女性化するという懸念は数十年前から存在しており、これに対して多くの動物実験や研究が行われてきました。
2008年に60歳だったある男性が体内のエストロゲンの上昇によって乳房を大きくさせた事例は、その後のイソフラボンに対する心配と恐怖につながりました。
この男性の医師は、男性が一日に3クォート(約2.8リットル)もの大豆を摂取していたと報告しています。
この摂取量は、大豆をよく食べる日本や上海の男性の一般的な量の約8倍です。
しかしそれでも多くの研究結果は、イソフラボンの正常範囲での摂取が、男性のホルモンや精子の質などに影響を与える証拠はないとしています。
米国小児科学会は、「大豆ベースのタンパク質は、母乳や牛乳に代わる安全かつ栄養のある代替品である」と報告しています。
(より詳細なイソフラボンに関する研究結果についてはこちら)
人工肉の参入に対する畜産業界の反発
日本の厚生労働省の基準では、一日のイソフラボンの摂取量は16~22㎎となっています。
今回スタングル博士は、インポッシブル・ワッパーには44㎎の“エストロゲン”が含まれていると指摘しています。
エストロゲンとイソフラボンは似たような性質を持ちますが全く同じものではないため、博士は人工肉の悪影響を誇張するために、あえてイソフラボンではなくエストロゲンという表現を使った可能性があります。
44㎎は一日の摂取量を越えています。
しかしこの程度の過剰摂取が健康に影響を与えることはありません。
食品安全委員会は、イソフラボンの一日の摂取目安量の上限を70~75㎎としています。
記事を書いたスタングル博士は他にも、インポッシブル・ワッパーが従来の牛肉を使った商品に比べて必須アミノ酸の含有量が少なく、それを補うためにはかなりの量のハンバーガーを食べなければならないと指摘しています。(牛肉には十分なアミノ酸が含まれているとも付け加えています)
そして牛肉に代わる人工肉を使ったハンバーガーを、従来の製品よりも安く競争力のあるものにするのは不可能ではないか、と結論づけています。
人工肉を食べることで起きる人体への変化については、今後の経過を見守る必要があります。
しかしイソフラボンに関しては多くの研究結果が出ており、それらの多くは大量摂取による健康被害について報告していません。
インポッシブル・ワッパーが男性の乳房を大きくするという記事は、畜産業界の人工肉に対する警戒感を表しています。
インポッシブル・ワッパーや人工肉を食べても胸が大きくなることはありません。
人工肉の市場は広がりつつあるからな。畜産業界は不安を煽りたいのだろう
肉の生産が環境に悪いことが知られてきてるから、生産者もイメージアップに苦労してるのかもしれないね
バストアップできるハンバーガーというのも、それはそれで商品になるのでは……?
References: Ars Technica