NASAの有人宇宙船アポロ8号が打ち上げられてから12月21日で50年になります。
アポロ計画は1961年から1972年にかけて行われたNASAの宇宙飛行計画で、月に人を着陸させるのを目的に行われました。
アポロ8号は、人類が初めて月に着陸することになったアポロ11号の前に、有人で地球を離れ月の周りを周回した初の宇宙船として知られています。
人類の宇宙開発に先鞭をつけたアポロ8号の月周回から50年がたち、本格的な宇宙開発や宇宙進出の話がでてくるようになってきました。
しかし当時アポロ8号のパイロットの一人であったウィリアム・アンダース氏は、有人宇宙開発に対して疑問を投げかけています。
火星へ人間を送るのはばかげている
Image Credit: NASA
アポロ8号の3人のパイロットのうちの一人であるウィリアム・アンダース氏はBBCとのインタビューで、「火星に人を運ぶのは愚かなことだ」と話しています。
今年で85歳になるアンダース氏は、68年に打ち上げられたアポロ8号のパイロットの一人で、初の有人宇宙飛行を成し遂げた英雄として知られています。
アンダース氏は最近のNASAの宇宙開発への取り組みに対して支持はしているものの、火星に人を送ろうとする計画については一蹴しました。
私は“無人”の計画には大いに賛成しています。しかし人を使った任務についてはそこに公的な資金を投入すべきではありません。
アポロ計画には巨額の資金が投じられました。
当時予算を承認したジョン・F・ケネディ大統領も、当初はその金額の大きさにあいまいな立場だったといわれています。
しかしソ連が先に有人飛行を成功させたことから、ついには計画を支援する形となりました。
アンダース氏はその計画の上で活動していた当事者です。
彼が現在のNASAが行っていることに、どれだけの公的資金が投入されているかについて敏感になるのは無理もありません。
アンダース氏は、人類が月や火星に行くのが当然であるかのような現状の空気感について次のように述べます。
火星へ行くことに対して私たちを駆り立てているのは何でしょうか?私は大衆がそれほど興味を持っているとは思わないんです。
今年の11月、NASAの無人火星探査機インサイトが火星の平原エリシウムに着陸しました。
NASAはその後の声明で、「今回のインサイトミッションの成功は、後に火星に宇宙飛行士を送る助けになるでしょう」と述べています。
アポロ8号の遺産――地球の出
人類が初めて見た宇宙からの地球の姿
1968年12月21日にフロリダのケープカナベラルから打ち上げられたアポロ8号は、アンダース氏らパイロット3人を乗せて月の周りを10週し、12月27日にハワイ南方の北太平洋上に無事着水しました。
パイロットたちは、地球から最も離れた場所から戻ってきた最初の人たちとして賞賛され、これがアポロ11号の月面着陸へと続く大きな足掛かりとなりました。
しかしアンダース氏は、その後のNASAの活動が硬直化していったことに対し不安を覚えたと振り返ります。
ケネディ大統領は公約で、1960年代の終わりまでに月面に人間を送りこむことを目指していたため、NASAはそれにこたえるために何としてもアポロ計画を成功させる必要がありました。
そこには多くの資金が流れ込んでいて、NASAと関連企業、そして政治家との密接な関係が築かれました。
その流れはアポロ計画後も続き、スペースシャトル計画に引き継がれました。
アンダース氏は、「スペースシャトル計画は重大なエラーだった」と語っています。
何度も宇宙を行き来できる輸送船としての運用がはじまったが、度重なる事故やコストの増大、安全面への不安から2011年に計画は終了した。
スペースシャトル計画はアポロ計画と比べ多くの批判にさらされた。
NASAの政治寄りな活動への傾倒はアンダース氏を不快にさせましたが、彼は自分のした仕事に愛着があったことは認めています。
そしてその偉大な仕事の中で最も意義のあったことは、月の地平線からとらえた地球の写真だと話しました。
日の出ならぬ地球の出――Earthrise。Image Credit: NASA
「地球の出(Earthrise-アースライズ)」と呼ばれるこの写真は非常に有名で、後に11号で月に着陸するパイロットや歴史家などは、この写真こそが8号の成し遂げた最高の偉業だと称えています。
アンダース氏の意見は、宇宙開発従事者にとって一般的ではないかもしれません。
彼は自らを、「私は物事を率直に言いすぎるので人気がない」と説明します。
それでもこの上の写真が示すように、地球に対する新しい視点を人類にもたらしたという意味で、その栄誉は長く語り継がれていくことでしょう。
アポロ8号に同乗したもう一人のパイロット、フランク・ボーマン氏はアンダース氏ほどNASAに批判的ではありません。
私は太陽系についてしっかりとした探査が必要だと固く信じており、人間もそこに加わる一部だと考えています。
しかしボーマン氏は、イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏の掲げる火星移住や植民地計画についてはナンセンスであるとしています。
またもう一人の乗組員であるジム・ラヴェル氏は、地球の出を見たときの感想について語っています。
彼はそのとき自分の存在について疑問を抱いたといいます――私は何のためにここにいるのだろう、と。
彼の見解はこうです。
神が人類に演技の舞台を与えたのだと思います。そしてそれをどう終わらせるのかは私たち次第なのです。
月から地球を見るなんてどんな気持ちなんだろう
きっと感動しかないんじゃないかなー
アポロ計画は地球の素晴らしさを人類に見せた偉大なミッションだったと言えるな