世界保健機関(WHO)は先日、正式に「ゲーム障害」を精神疾患と認定しました。
何事もやりすぎが禁物なのは当然のことで、その対象がゲームだからといって取り立てて騒ぎ立てる必要はありません。
しかしWHOの認定を機に、特に子供に関わる仕事に従事している人たちは、ゲームとそれを取り巻く環境、そして販売会社などに対し攻撃的な姿勢を見せ始めています。
先日イギリスの児童委員会(UK Children’s Commissioner)が政府への提言として提出したレポートは、世界的に人気な「フォートナイト」や「マインクラフト」、「FIFA」などといったゲームをプレイする十代前半の子供たちの意見を交え、ゲームが及ぼす子供たちへの悪影響について取り上げています。
委員会はゲーム内の戦利品、いわゆる「ルートボックス」について、それを正式に“ギャンブル”として規制するよう政府に求めています。
仲間たちに馬鹿にされないために課金する若者たち
© 2019 Electronic Arts Inc.
イギリスの児童委員会は「Gaming The System」と題するレポートを作成し、ゲームが子供たちに与える影響について当事者たちの発言を交えながら紹介しています。
レポートは最終的に政府に対する15の提言を行っていますが、そのうちの7つの項目はゲーム内での「経済的損害」に関連しています。
これは具体的には「ゲーム内課金」のことを指しています。
委員会は10歳から16歳までの29人の子供たちの証言を元に、現在のゲームがどのようにして子供たちの財布(時には親たちの財布)からお金を抜き取っているのかを明らかにしています。
例えば子供たちから圧倒的な人気を誇るEAのサッカーゲーム「FIFA」は、新しい選手を獲得するための方法の一つにルートボックス、いわゆるガチャを採用しています。
プレイヤーが、新しく、そして能力の高い選手を獲得するためには、課金をせずに多大な時間をかけるか、もしくはガチャを引き獲得するかの2つの選択肢があります。
子供たちのほとんどはFIFAをオンラインでプレイしており、彼らにとって新しい選手を保有していることは相手と差別化できる手っ取り早い自己表現になります。
そのため子供たちは、キャラクターを得るために何時間もゲームをプレイするよりも課金することを選びます。
課金をして得た新しいキャラクターは仲間からの称賛につながりますが、子供たちの多くは同時に矛盾した感情も抱えています。
あるプレイヤーは「周囲の視線を気にすることは大きなプレッシャーになる」と話しました。
また別の児童は、仲間たちの間で新しい選手やキャラクターのスキンを持っていない場合馬鹿にされることがある、と明かしています。
報告によると一部の子供たちは年間で300ポンド(日本円で4万円以上)ものお金を、キャラクターやゲームに有利なアイテム、そしてブーストされた経験値などを得るために使用しています。
ゲーム内課金はゲーム進行に関係ないものに限定すべき
委員会は子供たちを取り巻くゲームの環境を企業がうまく利用していると考えています。
周囲からの要求に応えるために子供たちは課金をする必要に迫られています。
しかしルートボックスのような中身が確定的でないものには、予期しない支出が常に付きまといます。
大人と比べて分別がつきにくい十代の若者が、目的の選手やアイテムを獲得するためにガチャにお金をつぎ込むことは容易に想像がつきます。
委員会はルートボックスを正式に「ギャンブル」であると政府が認定することを求めており、ゲームのパッケージに注意を促す警告文を添えたり、新しいゾーニングを設けたりする必要があるとしています。
またゲーム内課金をゲームのパフォーマンスや進行に影響しないもの――例えば新しい衣装などの見た目を変えるだけのアイテムなどに限定すべきだと提案しています。
ルートボックスについては現在でも国や地域によって対応が分かれています。
委員会によると、“ルートボックスをギャンブルとは認めない”という意見の背景には、ゲーム内通貨が現実のお金ではないという考え方があります。
通常ギャンブルとして認められる活動は実際のお金をやり取りしますが、ゲームのガチャはゲーム内通貨を介するため現実のお金を扱っているという感覚が希薄です。
しかし委員会は、ゲーム内で育ったキャラが第三者の企業やシステムなどを通じて売買されている例(アカウント売買)などを挙げ、ルートボックスやゲームそのものが既に経済活動と密接に結びついていることに留意すべきだとしています。
委員会はレポートの中で、ゲームとの接し方についてもう一度家族で話し合い、またゲームでのお金の使い方に関しても、例えば月額サービスのようなものに限定するなどの方法を検討するよう勧めています。
委員会の要請に対しイギリス政府は「慎重に検討する」とコメントを出しています。
子供たちがゲームに夢中になるのはそれが単純に面白いからというだけでなく、オンライン、オフライン問わず仲間と一緒の時間を過ごすことのできるツールであることも理由の一つです。
委員会も、ゲームが子供たちの人間関係の構築や社会的な役割などについて学ぶ機会を提供するものであることは認めています。
しかし一部の人気ゲームが、コミュニケーションのための不本意な課金をプレイヤーに促す作りになっていることは確かです。
※最近の日本ではガチャやゲーム内課金についてあまり語られなくなってきた印象があります。当たるかどうかわからない3,000円のガチャがほとんどのゲームに堂々と存在しているのは――かつて日本製のゲームがそのゲーム性で評価されていた時代を思うと――何となく寂しい気もします。
昔と違って開発費も高くなってるから仕方のない部分もあるのかな
ガチャ一回3,000円はどう考えてもおかしい……
References:UK Childrens Commissioner,Games Industry.biz