GEARS 5が目指した変革――新たなユーザーを招き入れるための3つの要素

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© Microsoft 2019

カナダのモントリオールで開催された国際的なゲームイベント「モントリオールインターナショナルゲームサミット」のなかで、「GEARS 5」の開発会社The Coalitionのロッド・ファーガソン氏が講演をし、「GEARS 5」で行った様々な取り組みについて語っています。

GEARS(ギアーズ)、またはGears of War(ギアーズ・オブ・ウォー)シリーズは、Xboxを代表するサードパーソンシューティングゲームです。

それまでのシューティングにはあまりなかった「カバーアクション」を特徴とした、バイオレンスに満ちたGearsシリーズは、その長い歴史の中で独特の地位を築いてきました。

ファーガソン氏は、「Gearsほどプレイヤーがタトゥーをしているゲームフランチャイズは見たことがない」と述べ、まず第一に、Gearsというゲームは“ハードコアなゲーム”として知れ渡っていると語りました。

 

ファーガソン氏は、今年9月に発売された最新作「GEARS 5」が、Xboxのサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」に入れられることを知り、Gearsにはこれまでにない変革が求められることになるだろうと考えます。

それはGame Passの加入者にとって、Gearsというゲームが必ずしも知られていない可能性や、非常に暴力的でとっつきにくいという印象がプレイを妨げる可能性があることなどに気づいたからでした。

ファーガソン氏は、かつて新しいゲームは――60ドルで買う前に――時間をかけて吟味する必要があったが、Game Passの場合はそうではないと述べ、新しいユーザーをGearsフランチャイズに招き入れるためには、Gearsを知らない人たちのための新しい要素が必要であることを痛感したと話しました。

 

Game Passの加入者は増え続けているものの、サービスを継続してもらうためには、いろんなゲームに触れてもらい魅力を感じてもらわなければなりません。

タイトルの数だけでなくゲームそのものの面白さがなければ、Game Passという月額サービスがうまくいかないことはマイクロソフトが一番よく知っています。

ファーガソン氏は、これまでの“ハードコアなバイオレンスゲーム”という、Gearsに付きまとうレッテルを剥がすことなく、初心者でも触れやすいゲームにするために、いくつかのアイデアを試すことにしました。

「GEARS 5」が新しく加えた、過去作にはない要素は次の3点――親しみやすさ、アクセシビリティ、そして多様性です。

 

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親しみやすさ――Gearsの常識から外れたキャラクター「ジャック」の投入

 

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親しみやすさはゲームが愛されるためには欠かせない要素です。

しかしGearsシリーズは2006年の登場以来、ほとんど固定のキャラクターで語られてきた物語です。

キャラクターに対して愛着を感じることができなければ、プレイヤーはすぐに他のゲームへと移っていきます。

前作である「Gears of War 4」から新たなキャラクターを登場させたのは、物語を一新するという目的だけでなく、これまでGearsユニバースに触れてこなかった初心者が入りやすくするためでもあります。

「GEARS 5」ではそれらのキャラクターに加え、新しい操作方法を持つロボット「ジャック」を投入しました。

ジャックはゲームの進行において度々重要な役目を果たすキャラクターであり、他のキャラクターのように銃を構え敵を撃ちまくることはできませんが、負傷した味方を回復したり、人間キャラでは行くことのできないエリアに飛んでいき、アイテムを取ったり問題解決に導いたりすることができます。

 

ファーガソン氏は「GEARS 5」の制作にあたり、RPG要素を付け加えたかったと述べます。

 

RPG要素をGEARS 5に追加したかったのですが、これまでのキャラクター設定はほぼ固定されています。そこでロボットを付け加えることにしました。

 

これまでの主人公たちが突然(経験値を得たことで)足が速くなったり、ライフ上限が上がったりするのは、どうみても、過去作から考えると不自然です。

その点新しくキャラクターとして加わったジャックには、これまでの背景がないため、比較的自由な設定ができます。

実際ジャックはゲームが進行するにつれ――RPGキャラのようにスキルを獲得し――できることが増えていきます。

こうしたRPG要素の追加は、Gearsという半ば固定客しかいなかったフランチャイズに新たなユーザーを引き込む導線となります。

 

Gearsのメカニックから最も遠い場所こそ親しみやすさにつながる

 

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またジャックの追加はファーガソン氏によると、“Gearsのコアから最も離れた考え”から生まれました。

Gears of Warのゲームメカニックはまず「カバーアクション」ありきで、敵の銃撃から身を隠しながら少しずつ前進していく部分にあります。

しかしジャックというロボットは銃撃を行わず、普段はステルスモードで敵の視線から外れ、また物陰にカバーすることなく常に宙に浮いています。

 

このような動きをするキャラクターは、Gearsのコアから最も対極に存在しています。

 

初心者の視点で物事に対処する最善の方法は、Gearsのコアから離れることにあると気づきました。

 

ファーガソン氏は意図的にGearsのコアから外れたキャラクターを作ることで、初心者にもプレイしやすい環境を作り上げました。

 

またジャックの追加は開発者側の信念だけで決まったわけではありません。

開発途中の段階でジャックをプレイしたユーザーは、「このキャラクターは(音楽になくてはならないという意味で)ドラマーのようなものだ」と評価し、また「ホード」と呼ばれる敵の大群を迎え撃つゲームモードにおいては唯一の回復可能キャラであることから、ジャックは他のプレイヤーから常に求められました。

ファーガソン氏はジャックというキャラクターの追加は、Gearsという固定されたエコシステムに「親しみやすさ」という友好的な側面を加えたと評価しています。

※ちなみにジャックは任天堂のWiiで発売された「スーパーマリオギャラクシー」にヒントを得たものだそうです。スーパーマリオギャラクシーでは2P側が1P側をアシストすることができました。

 

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アクセシビリティ――障害を持った人にも「GEARS 5」を快適にプレイしてもらいたい

 

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「GEARS 5」が意識した2つ目の要素がアクセシビリティ――すなわち障害を持つ人の操作性の向上です。

「GEARS 5」は聴覚に障害があるプレイヤーのための工夫が施されています。

Gearsは過去作において、重要な戦闘が終わった際にバックに流れる曲調を変えることで、プレイヤーを少しの間リラックスさせる作りになっていました。

しかしこの配慮は聴覚に障害のある人にとっては無意味なものです。

そこで「GEARS 5」には戦闘が終わったことを告げる字幕――例えば“音楽が静かになる”など――を加えました。

また字幕の難点として、誰がしゃべっているのかや、どんな口調なのかがわかりづらいという点があります。

この点に関しても「GEARS 5」では力を入れ、喋っているキャラクターや声にどんな感情が含まれているのかをその都度字幕で表現することにしました。

 

耳に障害があるユーザー向けのこうした配慮は、健常者にとっては時に煩わしく感じることもあります。

しかし「GEARS 5」と、改善されたアクセシビリティは、障害のあるプレイヤーと共にアクセシビリティの問題について取り組むサイト「Can I Play That」のレビューで6点中満点を獲得しています。

 

ファーガソン氏はアクセシビリティは品質に関わる問題であると考えていますが、世の中にはそれがまだ浸透していないと述べます。

 

GEARS 5の後でも、テキストが小さすぎて4Kモニターでも読みづらい、といったゲームがたくさん出ています。フォントの大きさを変えるという単純なことが、新しいユーザーの獲得に結び付くことを理解していない人もいます。

 

高齢者や障害者を含む、全ての人のアクセシビリティの改善を目的としている「The Accessibility Foundation」の調査によると、障害を持つ人の92%がゲームに親しんでいます。

今やゲームは健常者だけのものではなく、世界のあらゆる地域のあらゆる境遇の人が楽しむ一大産業です。

アクセシビリティの改善は、これからのゲーム制作において欠くことのできない要素になっていくことでしょう。

 

 

 

多様性――様々な背景を持った人のための配慮

 

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「GEARS 5」の過去作と異なる3つ目の要素は多様性です。

ファーガソン氏は発売の2カ月前に、ゲームのマルチプレイを担当している部署に、“レインボーフラッグ”が用意されているかを尋ねています。

レインボーフラッグはLGBTを象徴する旗として1970年代から使用されているもので、多様性を表すときに必ずといっていいほど引き合いに出されるものです。

マルチプレイの部署の答えは、レインボーフラッグについては発売から2カ月後にはなんとかなる、というものでした。

ファーガソン氏はそれを何とか発売に間に合わせるように促し、現在では様々なアイデンティティを示す19種類の旗をマルチプレイで使用することができます。

 

ファーガソン氏は、マイクロソフトが国際的な企業であるがゆえに、LGBTをはじめとした多様性は「GEARS 5」で問題になると予想していたと語ります。

その後、上司であるマット・ブーティー氏やフィル・スペンサー氏とこの問題について話し合った結果、ゲームの中で多様性を表す旗を用意しつつも、それを採用したことについて積極的にアピールしない方針をとりました。

多様性を示す旗の存在は、ゲームの発売後、プレイヤーのSNSを通して広まりました。

中には「GEARS 5」が多様性に配慮する決断をしたことを快く思わない人もいましたが、ファーガソン氏は、この決定が自分たちのためではなく、それを気にする人たちが“必要ならば”それを解決できる方法として提供されたものである、と強調しました。

 


 

ファーガソン氏は、Gearsという歴史のある血まみれのテストステロン型シューティングゲームで、新たなユーザーを得るための様々な試みがなされたことを評価しています。

そして「GEARS 5」が、Xbox Game Studios発のゲームとして最大のローンチを果たせた理由は、親しみやすさ、アクセシビリティ、そして多様性といった新たな領域への働きかけがあったからだと結んでいます。

 


 

長く続くシリーズには一定のユーザーがいるため、ゲームに何が求められているのかを制作者は理解しやすい立場にいます。

一方でそうしたゲームが既存のプレイヤーにばかり気を使っていると、新しいプレイヤーが入るには敷居が高くなっている場合があります。

過去にどれだけ称賛された素晴らしいゲームであっても、新たなユーザーを獲得できなければ、プレイヤー数や利益の規模が縮小していくのは避けられません。

 

「GEARS 5」が行った変革は――Game Passに含まれることがきっかけであったとしても――称賛されるべきものです。

これからのゲーム制作者にとって、様々な背景を持った人たちがプレイしやすい環境を整えることは、新しいユーザーを獲得するための無視できない要素になっていくことでしょう。

 

 

 

References:gamesindustry.biz

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