「Xbox Adaptive Controller」の意外な場所での使われ方と心をケアするゲームの力

ゲーム
© Microsoft 2019

マイクロソフトが発売した多機能コントローラーは、身体に障害のある人だけでなく、退役軍人のメンタルケアや社会とのつながりを維持するためにも利用されています。

ワシントンポスト紙は、2018年9月に発売された「Xbox Adaptive Controller(Xbox アダプティブコントローラー)」が、アメリカの退役軍人のために利用されている例を紹介しています。

今年の10月初旬、マイクロソフトのCEOサティア・ナデラ氏と、退役軍人でALS(筋萎縮性側索硬化症)患者でもあるロジャー・ブラノン氏は、アダプティブコントローラーを使いゲームで対戦しました。

対戦は、アメリカ合衆国退役軍人省(United States Department of Veterans Affairs-VA)のメディカルセンター内で行われ、アダプティブコントローラーが退役軍人の治療やリハビリ、精神ケアなどに役立つことを実証するための良い機会になりました。

 

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アダプティブコントローラーで退役軍人の誰もがゲームをプレイできるようになった

 

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ナデラ氏とForzaで対戦をしたブラノン氏(48)は、病気のため「今では15分以上ジョイスティックを持ち続けることはできない」と語ります。

通常のゲームのコントローラーは健常者のために設計されており、様々な病気やケガをしたプレイヤーのことは考慮されていません。

しかしアダプティブコントローラーは、当初から身体が不自由な人のために設計されました。

 

今回の共同企画の背景にはVAにとって深刻な問題の1つである、“退役軍人の自殺”を減らすための有効なツールとして、ゲームが注目されていることがあります。

ゲームが退役軍人の心のケアに良い影響を与えるという研究結果はいくつか存在しています。

研究ではゲームが運動能力、認知処理能力、および意思決定を改善できる効果的なツールであることが示唆されており、特に退役軍人が抱えやすい、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や薬物乱用などの問題を克服するために役立つことが報告されています。

 

VAのチーフであるラリー・コンネル氏は、ゲームの持つ接続性は退役軍人の自殺問題を減らすための「無形資産」の1つであると述べます。

 

退役軍人が自殺する理由には所属からの孤立や仲間意識の喪失があります。しかしXboxを使用して海軍の仲間とのつながりを維持できるのであれば、それは非常に大きな意味を持ちます。

 

Xboxアダプティブコントローラーは2つの大きなボタンと、カスタマイズ可能な複数の接続端子を持つ自由度の高いコントローラーです。

ユーザーのニーズに合わせ手指だけでなく、口やあご、または足を使って意思決定をすることもできます。

自由にカスタマイズ可能なコントローラーは、病気やケガの後でも、できる限りこれまでと変わらない形でゲームに参加するための機能をユーザーに提供します。

 

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軍隊に所属しているときに大きなケガをし四肢麻痺になったマシュー・ウェイド氏(31)は、ゲームの持つ利点を強調します。

 

体の下部に神経障害性の痛みがあり手足が燃えているように感じるので、私は主に慢性の痛みから気をそらすためにゲームを利用します。

 

ウェイド氏はゲームがある種の“逃げ”であることは認めながらも、ゲームをすることで痛みが消える傾向にあり、2人の兄と一緒にゲームをプレイするのをとても好んでいると話しました。

ゲームが現実逃避の側面を持っているのは確かですが、ウェイド氏はゲームの持つ利点に、現実を一時的に忘れることだけでなく、2人の兄たちとの交流も挙げています。

 

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他人と交流するツールとしてのゲーム

 

ゲームは多くの人たちとつながることのできるツールとして認識され始めています。

ワシントンD.CのVAメディカルセンターは、退役軍人がアダプティブコントローラーを利用して定期的にゲームをプレイできる外来クリニックを始めることを発表しました。

また毎年開催されている、車椅子の傷痍軍人のためのスポーツイベント「National Veterans Wheelchair Games」に、今年からeスポーツ部門が創設されることも決まっています。

 

高齢者や障害者を含む全ての人のデジタルメディアへのアクセシビリティ(利用しやすさ)を改善することを目的としている「The Accessibility Foundation」の調査によると、障害を持つ人の92%が、困難であるにも関わらず定期的にゲームをプレイしていることがわかっています。

バージニア州のレクリエーション療法士、コリーン・ヴィルズィ氏は、ゲームは軍事文化においても「巨大」であると評します。

そして、「退役軍人がゲームを利用して家族や仲間たちと連絡を取り続けることは、私たちが本当に望んでいることです」と語り、人とコミュニケーションをとるためのツールとしてのゲームに大きな期待を寄せました。

 


 

マイクロソフトは今回の企画を通じて、全国にある22の退役軍人施設にアダプティブコントローラーを配布する決定をしています。

身体だけでなく心にも傷を負った人にとって他人とのつながりは、まさになくてはならない生命線と言えます。

そこにゲームという文化が何らかの役割を果たせるならばそれは素晴らしいことです。

アダプティブコントローラーのような障害を持つ人たちにも自由に扱えるデバイスの登場は、ゲームが単なる娯楽ではなく、他人とのつながりによって精神的ケアにも貢献できる有効なツールにもなり得る可能性を示しています。

 

アダプティブコントローラーは現在のところ日本では発売されておらず、海外ショップなどでも手に入りづらい状況が続いています。

日本でも身体的な理由でゲームをプレイできない人たちがいます。

健常者障害者問わず、誰もが楽しめるゲーム環境が作られるようになってほしいものです。

 


 

 

ふうか
ふうか

ゲームが心のケアにも役立つなんて意外な効果があるものだな

せつな
せつな

面白いだけがゲームじゃない……これは声を大にして言いたい

しぐれ
しぐれ

アダプティブコントローラーみたいな製品がもっと作られるようになるといいね

 

 

References:The Washington Post