2016年に配信されたVRゲーム「Sea Hero Quest」には、アルツハイマー病や認知症を発見する能力があります。
Sea Hero Questはイギリスの複数の大学と慈善団体が協力して作成したVRゲームです。
ゲーム自体はゴールを目指して3D空間を移動するという単純な内容ですが、たどり着くまでのルートがいくつもあり、プレイヤーがどの道を選択するかによって、現在の認知や記憶の状態がわかる仕組みとなっています。
Sea Hero Questは病気の初期段階を発見する
イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、イーストアングリア大学、および認知症の克服を目指す慈善団体である英国アルツハイマー研究財団(Alzheimer’s Research UK)によって開発されたSea Hero Questは、リリース開始以降既に430万人以上がプレイしています。
このゲームの特徴は、アルツハイマー病や認知症の人の行動を、病気ではない人の行動と分けて識別できる部分にあります。
通常認知能力に問題がないプレイヤーは、地図を見てゴールまでの最短ルートを選び、実際にその道を進みます。
一方認知能力に問題があるプレイヤーは、ゴールまでのルートを確認した後でも回り道をする傾向にあります。
これはプレイヤーの認知と空間認識との間に齟齬が生じていることを表しています。
開発者の一人は、「空間ナビゲーション能力は、アルツハイマー病を特定するための重要な要素である」と指摘しています。
(Credit: Deutsche Telekom AG)
米国科学アカデミー紀要に掲載された研究では、Sea Hero Questをプレイした27,000人のプレイヤーを対象に実験を行っています。
実験では50歳から75歳までのプレイヤーにSea Hero Questで遊んでもらいました。
この年代は、今後10年以内にアルツハイマー病や認知症を患う可能性が最も高いグループです。
実験では対照群として、アルツハイマー病のリスクを増大させる「ApoE4」と呼ばれる遺伝子を持つ60人の患者が加わりました。
ApoE4を持つプレイヤーの多くは、ゴールまでの最短ルートを選びません。
実験の結果、まっすぐにゴールにたどり着けなかったプレイヤーには、アルツハイマー病の初期の兆候があることがわかりました。
これらのプレイヤーは、ApoE4を持つ人たちと同様、空間認識能力に何らかの問題がありました。
現在のアルツハイマー病や認知症に関するテストは、病気が進行している状態を対象としているものが多く、初期段階を発見する目的では利用されていません。
研究者は、「空間ナビゲーション能力の低下は、アルツハイマー病の症状である記憶の悪化にかなり先行する可能性がある」と述べ、Sea Hero Questは、病気の初期段階を特定するうえで有効なツールになり得ると指摘しています。
Sea Hero Questは、Oculus GoまたはApp Store、Google Playで無料ダウンロードできます。
ゲームで病気がわかるなんて画期的だね
ゲームにも社会に貢献できる力がある……
Reference: CNN