チチカカ湖の水中で見つかったリャマの置物と金のブレスレット 湖の持つ神聖さを裏付ける発見

歴史
(Image: Teddy Sequin)

南アメリカで最大の淡水湖であるチチカカ湖は、インカやその前身のティワナクといった古代文明にとって重要な場所でした。

水中には神への捧げものとして様々な物が沈められ、現在でも、金や銀、貝殻などで作られた装飾品が見つかっています。


2012年からチチカカ湖で遺物のカタログ化を行っているベルギーの考古学者チームは、これまで未調査だった場所を捜索し、新たに石の箱に納められたリャマの置物とブレスレットの一部とみられる金のシートを発見しています。

約500年前に沈められた未開封の箱は、チチカカ湖全域がインカの人々にとって神聖な場所であったことを伝えています。

 

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水中の石の箱から見つかったリャマの置物と金のブレスレット

 

豊かな天然資源をもつチチカカ湖は、アンデス山脈の標高の高い場所にあり、現在のボリビア側に浮かぶ「太陽の島」はインカ帝国の発祥の地として知られています。

太陽の島の北西にある「コア岩礁 (Khoa reef)」では、1977年に一連の供物が発見されて以降、これまでに数多くのインカとインカ以前の文明の遺物が見つかっています。


ブリュッセル自由大学とアメリカのペンシルベニア州立大学の考古学者チームは、コア岩礁から30キロほど北にある「カカヤ岩礁 (K’akaya reef)」と呼ばれるエリアで調査を行い、湖底から供物とみられる石の箱を発見しています。

四角い石の箱は慎重に引き上げられ撮影や計測が行われた後、地元の先住民コミュニティや自治体の関係者の前で開封されました。

石の箱は横36センチ、縦27センチ、高さが17センチで火成岩の一種である安山岩で作られており、中央には供物を入れるための穴と蓋がついていました。

また側面には、水中に沈める際に使うロープを通す小さな穴も開けられていました。

 

箱の中に納められていたのは、小さなリャマの置物と丸められた薄い金のシートで、これらは小さな魚の骨を含む粘土質の堆積物の層に埋まっていました。

 

貝殻を削って作られたリャマの置物は、横2.8センチ、縦4センチ、幅4ミリで、筒状の金のシートは横2.5センチ、縦1.3センチでした。

金のシートはインカの貴族が右前腕に着けていたブレスレットを模倣しています。

(Photo: T.Seguin,Université libre de Bruxelles)

 

リャマと金のシートという2つの組み合わせは、コア岩礁やアンデス山脈の標高の高い場所からも見つかっています。

これらはインカの宗教的な儀式である「カパコチャ」に関連しています。

カパコチャは自然災害や皇帝の死去の際などに執り行われた儀式で、通常は子供がいけにえとして捧げられました。

カパコチャの痕跡は山頂のほかにも、山の斜面や洞窟、チチカカ湖の南岸にあるティワナクの遺跡「プマプンク」などでも確認されていますが、全ての場所から子供の骨やミイラが見つかっているわけではありません。

研究者はコア岩礁やカカヤ岩礁で発見されたリャマについて、実際の子供の身代わりとして沈められた可能性があると指摘しています。

 

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インカの人々はチチカカ湖全体を神聖な場所としてとらえていた

 

カカヤ岩礁はコア岩礁の真北に位置している (Credit: C. Delaere)

 

これまでにチチカカ湖で発見された遺物は、全て太陽の島近くにあるコア岩礁からのものでした。

しかしカカヤ岩礁でも遺物が見つかったことから、研究者は、チチカカ湖全域がインカ人の崇拝対象であったと推測しています。

過去の調査では、インカ帝国の時代(1440年以降)のチチカカ湖の水位が2014年時とほぼ同じであったことが確認されています。

つまり当時の人々は、船やいかだを使ってカカヤ岩礁までいき、水上で儀式を執り行っていたことになります。

コア岩礁の真北にあるカカヤ岩礁は、イリャンプとアンコウマと呼ばれる金が豊富に産出した山を見渡せる位置にあります。

この場所は、インカの人々と彼らの信仰する神とを結びつける重要な役割を果たしていたと考えられます。

 

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ペンシルベニア州立大学の人類学の教授ホセ・カプリレス氏は、「インカ人がチチカカ湖で何らかの儀式のために供物を捧げていたことはみんなが知っている」と述べる一方で、それらの知識のほとんどはスペイン人の記録から来ていると説明します。

征服者であるスペイン人が残した年代記には、インカの金銀財宝や風習と共にチチカカ湖での儀式の様子も記されています。

そこには神への捧げものとして人間が沈められていたことが言及されています。

しかしこれまでに湖底からは、儀式と関連した人間の骨は見つかっていません。

今回の調査は、太陽の島と同様の宗教的な場所を探すために行われたものですが、同時に、誤って伝えられてきたインカの歴史の修正にも貢献しました。

カプリレス氏は、「チチカカ湖にはまだ明らかにされていない多くの驚きがある」と述べ、「これらの水中世界は、古代の社会を理解するための優れた機会を提供している」と付け加えています。

 

研究結果はAntiquityに掲載されました。

 


 

 

せつな
せつな

石の箱に動物や人間の血を入れて沈めていたという記録もあるとか……

しぐれ
しぐれ

湖の他の場所の調査が進めばもっといろんなことがわかるようになるかもしれないね

 

References: Penn State