地球の長い歴史をたどればわかるようにこれまで多くの種が絶滅してきました。
気候変動や隕石の衝突など様々な要因が生態系に影響を与えた結果今日の地球があります。
これがどうすることもできない自然の成り行きなのかはわかりません。
ただ科学者たちは、少なくとも“ある種”の動物に関しては大きな危機感を持っています。
現在ものすごい勢いで両生類の生息数が激減しています。
カエルツボカビ症――500種類以上のカエルと両生類が減少または絶滅
毎年多くの種が地球上から消えていますが両生類もその例に洩れません。
生物学者たちは1990年までに多くのカエルの種が絶滅したことを知っています。
これらの絶滅は除草剤や生息域の減少、外来種、環境の汚染などが主な原因とされてきました。
しかし近年カエル以外の両生類も急速に世界から失われているのが認識されるようになってきました。
Science誌に先日発表された研究では、過去50年の間に501種の両生類が減少しており、そのうちの90種は既に絶滅したと考えられています。
この絶滅を引き起こしているのがツボカビの一種が引き起こすカエルツボカビ症です。
この病気はツボカビ菌がカエルの体表に寄生、繁殖し、カエルの食欲を減衰させたり呼吸困難や麻痺を起こさせます。
これまで生物学者たちは、カエルが絶滅したり生息数が減少している原因を外来種や生息域の喪失などと結び付けていました。
しかし近年のカエルをはじめとした両生類の急速な減少には何か別の原因があるのではないかと考えるようになります。
そうした中1998年にオーストラリアの科学者チームがカエルツボカビ症を発見します。
彼らの研究は、この真菌病原体がオーストラリアと中央アメリカの熱帯雨林におけるカエル減少の原因であることを見出しました。
オーストラリア国立大学の生態学者で研究主席著者のBenjamin Scheele氏は、この真菌の発見が、病気が野生生物にどんな影響を与えるかについての理解を書き換えたと話します。
カエルが世界中で死にかけていることは知っていましたが、誰もその影響についてこれまで評価をしたことがありませんでした。
別の研究者はカエルツボカビ症を「科学にとって最も致命的な病原体」と表現しました。
しかしどうしてこの真菌が急速に世界に広まっていったのでしょうか。
それは人間が地球を飛び回るようになったからでした。
カエルや両生類の存続は人間や地球の存続につながる
Image by Tomasz Proszek from Pixabay
調査によるとこのカエルツボカビ症を引き起こす真菌の出所は、東アジア――そしておそらくは朝鮮半島――が起源であり、輸送技術の発達と共に世界に拡散したと考えられています。
世界中に広まった真菌は特にオーストラリア、中央および南アメリカで猛威を振るっています。
この地域のなかでもとくに標高の高い場所や生息域が限られている種ほど壊滅的なダメージを受けています。
たかがカエルごとき……と考えてしまいがちですが、科学者たちが危機を訴えるのには理由があります。
カエルや両生類の多様性の減少は生態系全体に悪影響を及ぼします。
両生類はより大きな動物の獲物としても役立つ一方で、彼らが多くの昆虫や蚊を消費することで私たちの生活とも密接に関わっています。
毎年多くの犠牲者を出すマラリアを媒介する蚊は彼らにとって主な食事ですし、作物を荒らす害虫は両生類の大好物です。
オタマジャクシは汚染物質を含む藻類を食べることで水をきれいにします。
2014年に発表された研究では、サンショウウオは木々の葉を食べる昆虫をエサとすることで微力ながらも地球温暖化対策に一役買っていることが示されました。
彼らがいなくなれば人間の生活に多大な影響が及ぶのは避けられません。
また科学者たちは両生類の皮膚が薄いことがその地域における健康の度合いを測る尺度になると指摘します。(事実カエルツボカビはカエルの薄い皮膚から侵入し彼らを病気にします)
ある地域の両生類が病的である場合、その環境を含む地域がクリーンでないことが容易にわかります。
このように両生類の存続は彼らだけでなく私たち人間にとっても重要な意味を持っています。
調査によると――幸いなことに――まだカエルツボカビの脅威にさらされていない地域がいくつかあるといいます。
科学者たちはこうした地域が真菌に浸食されないために世界規模でのバイオセキュリティ強化が必要だと考えています。
現在カエルツボカビ症に対する有効な対策方法は存在していません。
カエルツボカビ症は前例のない致死率を持つ病気です。
野生生物の保護を考える際にはどうしても小さい種は見過ごされがちです。
しかしたとえ小さくても彼らの存在は、人間だけでなく全ての地球の生き物と関わりがあります。
カエルツボカビ症の蔓延は今を生きる私たちに、未来の人類と生き物、そして地球のために考え行動するべきであることを訴えかけています。
References:TheConversation,mnn