インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は先日、首都であるジャカルタを1,300km離れたボルネオ島(カリマンタン)に移動すると発表しました。
ジャカルタは1000万人以上が住む過密都市であり、近年は交通渋滞や人口増加に伴う大気汚染の問題、さらには開発による地盤沈下などにより首都機能の維持が将来的に困難になるという見方が出てきていました。
北ジャカルタでは過去10年で2.5m地盤が沈んでいて、年間では平均1~15cmの沈下が続いています。
研究者はジャカルタが2050年までに完全に水没する可能性があると警告しています。
大統領が首都移転先としている東カリマンタンは一部を除いてまだ未開発の地域であり、これまでジャカルタが幾度となく悩まされてきた自然災害にも晒されていない地域です。
2024年から開始される首都移転計画によると、ジャカルタの面積の3倍の180,000ヘクタールの土地が開発され、年間で68億ドルが費やされる予定となっています。
将来の水没から逃れるためには遅かれ早かれ行わなければならない首都の移転ですが、一部の専門家たちは移転先の自然が破壊されることを憂慮しています。
そこには生息地を奪われ続けている先住民とオランウータンがいます。
首都の移転は元々の自然をさらに破壊し、オランウータンと先住民の生息域を狭める
東カリマンタンの首都移転先と周辺地域 Image:Joko Widodo/Twitter
インドネシア政府が計画している首都の移転先は比較的開発が進んでいない地域です。
しかしこの場所はこれまで、特にパーム油(ヤシ油)のプランテーションのために木々が伐採されてきた歴史があります。
WWF(世界自然保護基金)のインドネシア支部ディレクターであるイルワン・グナワン氏は、この地域が過去数年で「破壊された」と述べ、新しい首都ができることに対して懸念を抱いています。
グナワン氏は首都の移転によって人々の多くが周辺地域に住むようになると、その結果住居の必要性が増しさらに多くの森林が破壊されることになると警告しました。
2024年に始まる首都移転計画ですが、民間レベルでは既に一部の開発が進んでいます。
インドネシアの不動産開発会社アグン・ポドモロ・ランドは東カリマンタンに高級マンション、ホテル、ショッピングモールを建設することを表明しています。
また北カリマンタン州では178億ドル規模の水力発電所を建設する計画も進行中です。
首都移転計画を進めている国家開発計画大臣は、新しい首都とその周辺を「森林都市」と呼んでいます。
しかしグナワン氏はこれに納得していません。
氏は首都だけでなくその周囲の地域も自然破壊に対し十分考慮されなければならないとし、そこに住んでいるオランウータンと先住民が生息地を追いやられるのは時間の問題だと指摘しました。
オランウータンは既にこの20年の間、パーム油のプランテーションと伐採の拡大によりその数を大幅に減らしました。彼らの生息地は新しい首都から遠く離れていますが、入植者の住居が増えていくことで最終的には生息地を減らすことになります。これは時間の問題です。
首都移転により生活を奪われるのはオランウータンだけではありません。
この地域には「ダヤク」と呼ばれる先住民が暮らしています。
グナワン氏はダヤクについて、彼らが森林に依存する人々であり、彼らの生きる方法は現代人が森林の生態系を維持するのを助けるものだと評価しています。
また先住民族や少数民族の人権を守る国際団体MRGI(マイノリティ・ライツ・グループ・インターナショナル)は、ジャカルタからの首都移転はダヤクの人々の環境を「破壊する」と述べました。
ダヤク以外にも元々この地に住んでいる地元の人たちは、首都移転とそれがもたらす恩恵について懐疑的な見方をしています。
東カリマンタンの住民の一人はBBCに対し「中央政府に近いことはいいことだ」と語りますが、地元の人たちの多くが首都移転によって利益を得るのは(自分たちではなく)政府関係者とビジネスマンだけだと感じています。
現在この地域で採れる天然資源のほとんどは首都ジャカルタのあるジャワ島へと流れていて、ジャワ島以外に住むインドネシア人は経済の一極集中に不満を抱いています。
インドネシア政府にとってジャカルタからの首都移転は、東カリマンタンに住む人々やオランウータンを始めとする自然環境に対し大きな責任を伴う事業となりそうです。
References:BBC