体長1メートルの“ミニ”T.レックスが発見される――進化の過程を明らかにする可能性も

自然
Image by Joakim Roubert from Pixabay

最強の捕食者であるT.レックス(ティラノサウルス)は今や世界中の人を熱狂させる恐竜を代表するアイコンです。巨大な顎や胴体は、まさに彼らが恐竜時代の王者であり最強の捕食者であったことを容易にイメージさせます。

T.レックスが巨大な生き物であったというのは私たちの共通理解ですが、最近の研究によるとその概念がひっくり返る可能性があります。

 

新しく見つかった9200万年前のT.レックスの化石は、彼らがたった1mほどの体長しかなかったことを明らかにしています。

スポンサーリンク

 

体長1m、体重40kgの“ミニ”T.レックス

 

Suskityrannus hazelaeの想像図 Credit:Andrey Atuchin

 

学術誌Nature Ecology & Evolutionに掲載された研究は、1997年と1998年にニューメキシコ州で発掘された恐竜の化石が、現在知られているT.レックスと同じ系統を持つ新しいT.レックスであることを明らかにしました。

論文によると化石から推定されるT.レックスの体長は約1m、頭から尾までの長さが約3mで、体重は40kgほどしかありません。

「Suskityrannus hazelae」と名付けられたこの“ミニT.レックス”はおよそ9200万年前に生息していたと考えられ、現在知られている“巨大な”T.レックスに連なる系統を持つものと考えられています。

 

当時まだ高校生で、1998年に化石の一部を発見したバージニア工科大学理学部の地球科学科助教授Sterling Nesbitt氏は、この恐竜がT.レックスというよりもヴェロキラプトルに似たものだと述べています。(ヴェロキラプトルは体高50cm、全長2mほどの小さな恐竜で、映画ジュラシックパークに登場したことで有名になりました)

Nesbitt氏は1997年に別の地質学者が発見したとても小さなT.レックスの頭蓋骨を見て、それ以外の標本も発見したいと考えました。その後Nesbitt氏は頭蓋骨が見つかった地点から離れた場所で残りの完全な標本を見つけることができました。

 

今ではこの非常に完成したSuskityrannus hazelaeの化石は、研究者がT.レックスについて学ぶのを大いに助けています。

 

体長の異なる複数の化石と約7000万年の“ミッシングリンク”

 

Suskityrannus hazelaeの化石と発見者のSterling Nesbitt氏 Credit:Sterling Nesbitt/Virginia Tech

 

私たちが想像する巨大で狂暴なT.レックスは白亜紀後期、約8100万年前に地上に現れました。世界各地で発掘されたこの時代のT.レックスの化石は、それらが巨大な体を持っていたことを証明しています。

しかし過去にはそれほど大きな体長を持たないT.レックスに似た化石も多く発見されています。

その中で最も古いとされる化石は約1億5000万年前に生息していたとされる中型のT.レックスでした。

これは巨大なT.レックスの出現の前に体の小さなT.レックスが生息していた時代があったことを意味します。

 

巨大なT.レックスの出現した8100万年前と、最も古いT.レックスの存在していた1億5000万年前――この差である約7000万年という期間に何が起きていたのかについてはデータが乏しく、研究者たちはT.レックスの進化の謎について頭を悩ませていました。

しかし最近になって約9000万年前のものとされる馬の大きさほどのT.レックスの化石がウズベキスタンで発見されました。

そして今回発表されたSuskityrannus hazelaeも9200万年前のものであることから、研究者たちはこれらの“ミッシングリンク”をつなげることでT.レックスの進化の過程に迫ることができると考えています。

 

エディンバラ大学の古生物学者Steve Brusatte氏は、Suskityrannus hazelaeが巨大なT.レックスの持つ筋肉や頭蓋骨、大きな口、衝撃を吸収する脚部などの特徴を持つことから、この発見はT.レックスの進化についての重要な手がかりになるだろう、と述べています。

 


 

古生物学者たちは、Suskityrannus hazelaeや他の小さなT.レックスが巨大なT.レックスの直接の祖先になる可能性は低いと考えています。

しかしまったく関わりがないわけではなく、白亜紀初期に共通の祖先から分岐したのではないかと予想しています。

 

 

 


 

今回の発見はSuskityrannus hazelaeが大きなT.レックスの祖先ではなかったとしても、恐竜が思っている以上に多様な進化を遂げていたことを示すものです。

最近のT.レックスに関する新しい報告は、彼らが子供のときには羽毛で覆われていた可能性があったことを明らかにしました。

今後の発掘調査や研究でも、T.レックスの固定概念を覆す新しい事実が明らかになるでしょう。

 

 

References:VirginiaTech,LiveScience