アメリカでは毎年ラドンを浴びるために全国から多くの人がモンタナ州のボルダー盆地を訪れています。
ここには国内で4つしかないラドン鉱山を利用した健康施設があります。
ラドンはごく僅かな放射線を放つ無味無臭の気体で、昔からそれが健康にいいものだと信じられてきました。
日本にもラドン温泉や放射能泉として知られる施設がいくつも存在しています。
いわゆる民間療法に近いものがありますが、一部の研究にはラドンを浴びることの危険性を指摘するものがあります。
ラドンの危険性
Sunshine Radon Mine
モンタナ州にあるラドン健康施設には数多くの疾患を抱えた人々がやってきます。
彼らは関節炎、背中の痛み、リウマチなど多くの慢性的痛みを治療するため、鉱山跡に設置された部屋の中でゆったりとした時間を過ごします。
EPA(アメリカ合衆国環境保護庁――United States Environmental Protection Agency)はラドンが放射性化学元素であり、高濃度のものは肺がんのリスクを増大させると警告しました。
EPAの調査によるとアメリカでは毎年2万人がラドンに関連した肺がんで死亡しています。
この2万人という大きな数字はアメリカ以外の地域では見られない特徴です。
それはアメリカの家屋の多くが地下室を設けていることと関係しています。
EPAは国民に対して、地下室を含めた土壌のラドン放出量を測定することを強く勧めています。
WHO(世界保健機関)やCDC(アメリカ疾病管理予防センター)などのレポートでは、1リットルあたり4ピコキュリーを超えるラドンは危険とされています。
ラドン鉱山では、ときに1リットルあたり1700ピコキュリーが検出されることがあります。
鉱山が稼働していた時代、そこで働く労働者たちの肺がんによる死亡率は、同年代と比べてもはるかに高かったことがわかっています。
シドニー大学の疫学者Tim Driscoll氏は、ラドンを軽く見てはいけないと警告します。
ラドンが吸い込まれた場合、それは肺の気道もしくは組織内にとどまります。それらが分解されると肺のDNA細胞を傷つけガンのリスクを増大させます。
数字を見れば明らかに身体にはよくなさそうですが、どうして多くの人がラドンを浴びに出かけるのでしょうか。
プラセボ効果と平均年齢
日常でも私たちは少量の被ばくをしています。
宇宙からの放射線や大地や自然、建造物や食べ物からでさえ被ばくしています。
また医療行為――X線検査を受ける場合など――においても放射線を浴びることがあります。
しかしこれらは健康に影響を及ぼさない程度の軽いものです。
一方ラドン施設にやってくる人たちの多くは、ラドンに満ちた地下室で最大10日間――延べ60時間を座って過ごします。
ラドンにはリウマチに関してだけはプラセボ効果以上の効果がある、としている少数の研究結果もあります。
しかし先述したDriscoll氏は、その意見にはかなりの疑問が残るといいます。
ラドンが痛みを和らげるという結果にはかなり懐疑的です。仮にそうだったとしても被ばくがもたらす危険性を考えるならば別の方法をとるべきです。
日本のラドン温泉にも数多くの人々が治療を求めてやってきます。
有名な有馬温泉の源泉近くでは、避難が推奨されるレベルの放射線が検出されることもあります。
モンタナのラドン施設や他の放射能泉の例を見ると、やってくる人たちの多くが、被ばくの危険よりもそこに滞在し治療効果を信じて行動することを選んでいるように思えます。
そしてこの傾向は年代が高いほど顕著になります。
Driscoll氏は、ラドンに関連するガンが顕在化するまでには10年から20年の時間がかかると話します。
つまりラドンやその他の放射性物質に触れることで痛みを緩和したいと願う人が高齢であればあるほど、ガンとの因果関係が薄くなる可能性があります。
耐え難いほどの慢性的な痛みを持っていて、そしてあなたが80歳であるならばラドンが引き起こすガンは問題ではないでしょう。
施設にやってくる人々全てが高齢ということはないでしょうが、彼らのほとんどはこれまでにいろいろな医療施設で別の治療を受けてきたはずです。
それでも痛みが緩和されなければ、すがる気持ちが出てくるのが人間というものです。
事実としてラドンが肺がんにつながる危険因子であることに疑いはありません。
しかし彼らにとって、たとえ短い間でも心身ともに安らぎを得られる手段となるならば、それが一番幸福なことなのかもしれません。
Driscoll氏は、ガンのリスクを増大させることに変わりはないとして、人々にラドンを浴びないよう警告しています。
Source:ScienceAlert