イギリスのポーツマス大学とウクライナの科学者チームは、チェルノブイリ原発の周辺地域で収穫した穀物を使い、これまでにないまったく新しいウォッカを生産しました。
この「アトミック」と名付けられたウォッカは、原発事故の後33年間で初めて作られた“地場産品”です。
1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所の周辺は現在でも立入禁止区域が多く存在し、当時そこに住んでいた人々は強制的に避難させられたままです。
ヨーロッパ中にまき散らされた放射性降下物が人々の健康を脅かし続けるなか作られたアトミックウォッカですが、制作者によると、それは他のお酒と同じくらい無害な製品であるということです。
アトミックウォッカは他のお酒と同じくらい安全
ポーツマス大学とウクライナの科学者による共同チームは、立入禁止区域で栽培された作物の放射能を調査する3年間のプロジェクトの一環として今回の「アトミックウォッカ」を制作しました。
プロジェクトを率いる一人であり、何十年にもわたりチェルノブイリに関する研究に携わってきたジム・スミス氏は、放棄された土地の一部を作物の栽培に利用することが安全であるかどうかを調べるためにチームに協力したと語ります。
事故から30年たってもこの地域の作物の放射性レベルはウクライナの制限を越えていました。厳密にいえばこれを食べることはできません。でも私たちは“穀物があるならウォッカを作ってみよう”と考えました。
スミス氏たちはチェルノブイリ産ウォッカをつくるために「チェルノブイリ・スピリット・カンパニー」を設立し、禁止区域でウォッカの原料となるライ麦を栽培しました。
チェルノブイリ原発と放棄されたプリピャチの街 Image by Денис Резник from Pixabay
チェルノブイリ周辺にはいくつかの立入禁止区域がありますが、その数は33年前と比べ著しく減っています。
ウクライナ政府は、かつては人が住めるようになるのに24000年かかると試算されていた場所も、今ではほとんどの場合放射能汚染のリスクを無視できるとし、10年前から観光事業を再開しました。
チェルノブイリはウクライナの人気観光スポット第1位であり、2018年には60000人以上の訪問客を受け入れています。
しかし禁止地区においては今でも人の出入りが厳重に管理されており、この場所で栽培される作物の多くは放射能によって汚染されています。
案の定、栽培を始めたライ麦にも放射能に対する陽性反応がでました。
しかしスミス氏はウォッカが蒸留酒であることが製品の放射能汚染をなくすカギであると考えます。
何かを蒸留すると多くの不純物が老廃物の中に残り、最終的な製品はより純粋なものになります。
チェルノブイリ原発の南10kmにある汚染のない帯水層から採取したミネラルウォーターを使用したアトミックウォッカからは、その後の検査で、他のアルコール飲料や食品にも含まれている天然炭素14以外の放射性物質は検出されませんでした。
またスミス氏の同僚がアトミックウォッカを調べたところ、これが他の蒸留酒と同じくらい安全であることも確認されました。
チェルノブイリ・スピリット・カンパニーは生産したアトミックウォッカを観光客に販売する計画をたてています。
スミス氏はアトミックウォッカを“重要な精神のボトル”と表現しています。(精神――英語で“スピリッツ”には“蒸留酒”の意味もある)
これは世界で最も重要な精神をもつボトルだと思います。なぜなら、それは放棄された地域やその周辺に住む人たちの経済的回復を助けることができるからです。
今のところアトミックウォッカは1本しかありませんが、今年中には500本を生産し販売する予定です。
そして売り上げの75%を地域の経済発展のために寄付するということです。
チェルノブイリの観光客は、アメリカのケーブルテレビHBOが制作した「チェルノブイリ」の放映以降急激に増加しています。
アトミックウォッカが観光客に売れることで地域の発展が進むようになるといいですね。
References:University of Portsmouth,CNN