考えたくないのにあることが頭から離れない、こういう経験をしたことがある人は多いでしょう。
人間の脳はあふれ出る井戸のようなもので、人は考えを制御しようとしてもそれを止めることができません。
気分がよくなる考えならまだしもネガティブなイメージがついて離れないとしたら日々の生活は次第に色あせていってしまいます。
もし自分の考えを自由に制御したり他の考えに移行することができればとても素晴らしいことです。
不眠やうつなどに悩む人たちが思考の呪縛から解き放たれるきっかけにつながる可能性もあります。
……しかし残念なことにオーストラリアの研究チームによると、人は思っている以上に自分の考えを手放すことができないようです。
あることを意識的に“考えない”でいることは難しい
オーストラリアのニューサウスウェールズ大学の研究者チームは、人が自分の考えを意識的に排除できないことを実験で証明しています。
実験には67人のボランティアが参加しました。彼らはある特定の事柄について“考えないように”依頼されますが、実験の結果はそれがなかなか難しいものであることを明らかにしています。
実験ではまず参加者に赤色と緑色をした3つずつの果物と野菜を見てもらいます。内訳は赤いリンゴ、赤い唐辛子、赤いトマト、そして緑のブロッコリー、緑のきゅうり、緑のライムです。
参加者にはボタンが渡され、先ほど見たものについて“考えなかった”場合にはそれを押すように求められます。
次に参加者は赤と緑の画像を交互に見せられます。もし人が意識的に思考を制御できるならば、この画像を見てもリンゴやきゅうりを思い浮かべることはないはずです。
しかし結果は参加者のほとんどがリンゴやきゅうりを思い浮かべてしまい、渡されたボタンを押すことができませんでした。
この実験は、人が思考を意識的に制御することがいかに難しいのかを物語っています。
研究者の一人、Joel Pearson氏は「そこに考えがないように思えても実際にはそこにあります。これは何かについて考えないために強力な力が必要であることを示唆しています」と述べています。
赤い色をした野菜を見せられた後ですぐに赤色の画像を見せられれば、誰だってついさっき見た赤い野菜を(いやでも)思い浮かべてしまいます。
研究者はこれを、思考が本人の自覚しないレベルで視覚野に存在しているからだ、と推測しています。
また研究者は対象実験も行いました。
それは赤や緑の画像を見せられる前に別の色の物――例えば白い雲――について考えてもらうことです。
結果は最初と異なり、赤や緑の果物や野菜を連想するケースが減少しました。
この結果は連続した考えの途中に別のイメージを挟み込むことで考えを断ち切ることができる可能性を示唆しています。
研究者はこうした脳の仕組みが、有害な行動を避けることのできない中毒症状に対する解決法の発見につながると考えています。
Pearson氏は、人間の行動は欲望と無意識の考えが結びつくことで促進されたり決定されたりする、と語っています。
思考は自分の意思では止めることができません。思考が行動に結びつくのであれば、悪い行動の原因には悪い思考があります。
研究結果は、制御できない思考のつながりは別の考えを挿入することで断ち切ることができる可能性を示しています。
頭が嫌な考えに支配されそうになった時には意識的に何か他のことをするよう心がけるといいかもしれません。
References:ScienceAlert