現在地球の上空で活動しているISS(国際宇宙ステーション)はこれまで何人もの宇宙飛行士を迎え入れ、船内で様々な実験が行われてきました。
無重力という宇宙ならではの環境における実験や研究は、地上にいる私たちに多くの恩恵をもたらしています。
ISSは船内に持ち込まれた微生物に関する目録を持っています。
そのほとんどは人間が意図せず持ち込んだもので、ブドウ球菌やエンテロバクター属などの善でも悪でもない日和見菌を含みます。
日和見菌を含む微生物は――その名前が示す通り――地上では問題がなくても宇宙空間では予期せぬ変化を遂げる可能性があります。
宇宙空間における菌類の研究は飛行士の健康だけでなく宇宙船の構造維持にも役立つ
ワシントン州立大学の微生物学者であるAleksandra Checinska Sielaff氏は、これらの日和見菌がISSの宇宙飛行士に病気などの悪影響を与えるかは不明だとしています。
それは各個人の健康状態やこれらの菌の宇宙空間における機能などの要因に左右されるからです。
しかし目録を作れるほど多くの微生物が記録されているということは、人間の宇宙空間での生存が困難なのに対し、微生物は必ずしもそうではないことを表しています。
人間が今後も宇宙へ進出しようとしていることを考えるならば、宇宙空間での微生物についてもっと理解する必要があります。
NASAのジェット推進研究所の微生物学者であるKasthuri Venkateswaran氏は、宇宙飛行士が宇宙空間で洗練された医療を受けられないことを挙げ、微生物の研究は宇宙開発にとってさらに重要になるだろうと述べています。
ISSは微生物の活動を調べるために14か月にわたって船内の8か所からデータを収集しました。
データからは、観覧窓、トイレ、運動台、ダイニングテーブル、寝室などあらゆる場所で微生物の繁栄が認められました。
なかでもブドウ球菌、エンテロバクター属、バシラス属、ロドトルラ属の4つの菌類が最も活発に活動していました。
これらの菌は地球上や人間の身体に普遍的に存在していて、感染症と関連しています。
宇宙空間でも微生物がたくましく生き延びているというのは驚きですが、専門家はこれが宇宙飛行士に危険をもたらすだけでなく別の問題も発生させると語ります。
その危険とは、微生物の集まりによってISSの構造体が腐食させられることです。
ジェット推進研究所の微生物学者Camilla Urbaniak氏は、宇宙空間での微生物や真菌を理解することは、宇宙飛行士の健康だけでなく、構造物の安定性を維持するためにも重要になるだろうと述べています。
Urbaniak氏は特にバイオフィルムについて警戒しています。
そして宇宙船内に形成されたバイオフィルムが腐食を誘発し構造体の安定性を低下させると指摘しました。
去年ISS内に極小の隕石が原因とみられる亀裂が見つかり大騒ぎになりました。
原因が特定できればいいのですが、微生物の存在に気づかずにいることでいつの間にか壁に穴が開いていた、なんてことになれば宇宙進出どころではなくなります。
私たちが気軽に宇宙旅行を楽しめるようになるのはまだまだ先のことになりそうですが、一歩ずつでも宇宙空間における微生物の研究が進んでいってほしいものです。
References:ScienceAlert