NASAの偉大な探査機シリーズの一つ「ボイジャー2号」は、1977年に打ち上げられた後、木星、土星、天王星、海王星と4つの惑星を次々と訪れる「グランドツアー」の快挙を成し遂げました。
現在ボイジャー2号は1号と共に太陽圏を脱出し、地球という青く豊かな星の存在を知らせる証人として宇宙空間を漂い続けています。
ボイジャー計画に1972年から携わっているベテラン宇宙科学者エド・ストーン氏は、かつてボイジャー2号が訪れたある場所をもう一度訪れたいと考えています。
その場所とは土星の衛星の一つである「エンケラドゥス」です。
ベテラン科学者のエンケラドゥスへの思いと引き継がれる意志
エド・ストーン教授 Credit: NASA/JPL-Caltech
エンケラドゥスはボイジャー2号によって初めて詳細に観測されるまでは、数ある土星の衛星の一つでしかありませんでした。
しかし1981年の8月、エンケラドゥスに接近したボイジャー2号は、この星が大量の水を含んだ星であることを明らかにしました。
エンケラドゥスはその後、土星探査機カッシーニによって何度も観測が行われています。
現在エンケラドゥスの地殻の下には液体の水が存在していると考えられており、それはすなわち生命の存在の可能性を示唆します。
カリフォルニア工科大学の物理学教授で83歳のストーン氏は、「エンケラドゥスに戻る必要がある」と語ります。
私たちはエンケラドゥスの南極に氷があることを知っています。氷の地殻の下には液体の水があります。地球において水があるところにはどこにでも微生物がいます。
ストーン教授はボイジャー2号がエンケラドゥスを訪れるまでは、この星がただの土星のリングの斑点だったと振り返ります。
しかしボイジャー2号は、これまで科学者が当然だと思っていたことを覆し、太陽系とそこにある星についての新しい事実を次々と地球に送り返してきました。
エンケラドゥスの表面が氷で覆われていたという事実は科学者たちの好奇心に火をつけ、それは後のカッシーニのミッションへと続いていきます。
カッシーニが得たエンケラドゥスのデータは、この星が生命を構成するのに十分な量の水と有機化合物を備えていることを示しました。
ストーン教授はエンケラドゥスに探査機を送り、そこから水のサンプルを持ち帰ることを提案しています。
微生物は最もありそうなものです。それを見て、エンケラドゥスの微生物が地球のものと関係があるのか、それとも明らかに違うのかを確認したいのです。
エンケラドゥスの地殻内部では活発な熱水活動が起こっており、カッシーニによる2015年の観測からは、地殻内部から噴出する水蒸気に水素ガスが含まれていることが明らかになっています。
これはこの星が現在でも活発な活動をしていることを示すだけでなく、有機物と水、そして熱源という生命の存在に必要な条件が揃っていることも表しています。
宇宙科学の分野で半世紀近くにわたって活躍を続けるストーン教授ですが、今のところ退職する計画はありません。
教授は現在、太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」のミッションに参加しています。
また新しい30m強の巨大な宇宙望遠鏡の開発にも取り組んでいます。
ストーン教授は2019年の5月にこれまでの功績から、天文学の名誉ある賞を受賞しました。
賞には120万ドルの賞金がついていましたが、教授はそれを若い学生の科学者たちのために寄付しています。
ストーン教授のエンケラドゥスへの思いは、新しい世代の科学者に引き継がれています。
エンケラドゥスに生命が存在しているかどうかを知りたい科学者はたくさんいるだろうな
まだ具体的な探査計画はないみたいだよ
ストーン教授の探求心が若い世代にも伝わっていくといいね
References: The Guardian