世界で最も希少な霊長類の一種であるテナガザルは、生息地である森林の減少によって死の淵に立たされています。
テナガザルは一生のほとんどを樹上で過ごします。
そのため森林伐採や火災などが起きると生活圏が分断され、最終的には遺伝的多様性を失い絶滅に至ります。
テナガザルの個体数を回復する最も効果的な方法は、森林の伐採をやめ木を育てていくことですが、これには多くの時間が必要です。
現在研究者は、テナガザルの移動を助けるために、木と木をつなぐ“人工的な橋”を作り始めています。
テナガザルが橋を使うようになれば、生息地の分断が避けられ、種全体の生き残りにつながります。
海南テナガザルを救うキャノピーブリッジ
中国の海南島に生息する「海南テナガザル (ハイナンテナガザル)」は、テナガザルのなかで最も絶滅に近い種で、現在30匹ほどのみが保護区のなかで暮らしています。
海南テナガザルの保護活動を行っている香港の「カドリーファーム&ボタニックガーデン (KFBG)」は、13匹しか生息が確認できなかった2003年以降、個体数を回復するための努力を続けてきました。
その甲斐あって2015年までに4つの家族グループが形成され、今年の初めには新たに5番目のグループも誕生しました。
海南テナガザルの個体数の増加には、2015年から導入された「キャノピーブリッジ」が大きな役割を果たしています。
キャノピーブリッジは、木と木の間を結ぶ人工的な橋で、主に野生生物がロードキルに遭うのを防ぐ目的があります。
保護区のキャノピーブリッジは、2014年7月の巨大台風により、多数の木がなぎ倒されたのをきっかけに作られました。
台風は保護区の所々に傷跡を残し、場所によっては幅30メートルの森林が失われました。
KFBGは、テナガザルが地面に降りることなく移動できるようにするため、台風によって作られた森の空白地点にロープ(15.8メートル)を張り、その使用状況をリモートカメラで撮影しました。
観察は2015年の12月から2019年の2月まで行われ、208枚の写真と53の映像が収集されました。
記録を分析した結果、ロープを使ったテナガザルは9匹であることがわかりました。
(Credit: Kadoorie Farm and Botanic Garden)
彼らはロープに対し最初は警戒心を見せていましたが次第に慣れていき、最終的には様々な方法でロープを渡るようになりました。
手だけを使って移動する個体もいれば、曲芸のように足をロープに乗せて渡り切る個体もいました。
また若い個体は手足の両方を使い、ある母親はお腹に子供を抱きつかせたまま移動しました。
海南テナガザルのロープを使った移動は、世界で初めて確認されたものです。
海南テナガザルは保護区の森林に住んでおり、地面を歩いたからといって交通事故に遭うことはありません。
しかし台風や火災などの自然災害はいつやってくるかわからず、一度被害に遭えば、生活圏が分断されてしまう可能性があります。
森林はなかなか元には戻らないため、数の少ないテナガザルにとってこうした状況は文字通り命取りとなります。
KFBGの研究者は、「ロープを使ったキャノピーブリッジは、テナガザルを保護するための有用な解決策の一つである」と述べています。
海南テナガザルの観察結果はScientific Reportsに掲載されています。

テナガザルの種のほとんどは森林破壊や密猟で数が減ってるんだよ

海南テナガザルも17年で20匹くらいしか増えてないからまだまだ保護が必要だね
Reference:BBC