絶滅の一歩手前へ、IUCNがタイセイヨウセミクジラの危機ランクを引き上げ

動物
(Credit: Lisa Conger & Elizabeth Josephson/NOAA Fisheries)

IUCN(国際自然保護連合)は7月9日、絶滅の危機に瀕している動植物のリストを更新し、急速に数を減らしているクジラの種「タイセイヨウセミクジラ」のランクを、絶滅の一歩手前である「絶滅寸前 (Critically Endangered)」に引き上げました。

動きが遅いタイセイヨウセミクジラは古くから捕獲されてきたクジラで、特に捕鯨技術が確立して以降、その数は急激に落ち込みました。

現在地球上のタイセイヨウセミクジラの数は約400頭で、そのうち繁殖が可能な大人は250頭未満であると推定されています。

 

タイセイヨウセミクジラの危機ランクの引き上げは、クジラを保護する活動をしている科学者にとって最後の希望です。

米国マサチューセッツ州の沖にある海洋保護区「ステルワーゲン銀行国立海洋保護区」のデビッド・ワイリー氏は、「科学者は、長年タイセイヨウセミクジラが絶滅の危機に瀕しているという考えのもとで活動してきた」と述べ、今回の決定については、「ランクが引き上げられることで、タイセイヨウセミクジラの現状を政府や人々が意識するようになり、良い部分もある」と指摘しました。

タイセイヨウセミクジラの保護に30年以上取り組んでいる「Canadian Whale Institute」の科学者モイラ・ブラウン氏は、「大げさな表現ではなく、この動物は本当に困っている」と述べ、「IUCNのリストの更新は、タイセイヨウセミクジラの国際的な認識を改めることにつながる」と評価しています。

 

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タイセイヨウセミクジラを脅かす海水温の上昇

 

(Credit: NOAA Fisheries/Allison Henry)

 

タイセイヨウセミクジラは別の漁業で使われる網や、船のプロペラによっても命を落としています。

また近年の海水温の上昇もクジラの生存を脅かしています。

 

タイセイヨウセミクジラが定期的にやってくるメイン湾(米国メイン州の湾)は1990年以降、他の世界の海よりも3倍の速さで暖かくなりました。

アメリカとカナダはタイセイヨウセミクジラが出没する海域内での船の速度を制限していますが、海水温の上昇でクジラが他の海域にも現れるようになり、近年接触事故が増加しています。

また海水温の上昇によって名産品であるロブスターが異常繁殖し、それに合わせて海底に設置される捕獲カゴの数が増えています。

捕獲カゴと浮きを結ぶ太いロープは、タイセイヨウセミクジラの体に巻き付き、その命を確実に奪います。

 

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IUCNのリストの更新が、タイセイヨウセミクジラの未来にどう影響を与えるのかは未知数です。

2020年、タイセイヨウセミクジラの子供が新しく10頭確認され、科学者や保護団体は個体数の回復の兆しとして大いに喜びました。

しかしそのうちの1頭は、6月にニュージャージー沖で死んでいるのが発見されています。(死因は船との接触でした)

 

クジラの成長はとても遅く、たとえ万全な保護をし続けたとしても、回復を実感するまでには多大な時間と資金が必要になります。

ステルワーゲン銀行国立海洋保護区のワイリー氏は、「これは非常に遅いプロセスであり、結果が出るかどうかが20年もわからない場合、人々の関心と資金を維持し続けていくのは困難だ」と述べています。

 


 

 

かなで
かなで

世界の海に仲間が400頭しかいないなんてさみしいよ……

ふうか
ふうか

数の減少にロブスター漁や温暖化が関わっているのが厄介だな

しぐれ
しぐれ

クジラの現状についてもっとみんなが知るようになってほしいね

 

References: The Guardian,NOAA Fisheries