動物の雌のほとんどは生涯繁殖を続けます。
閉経が起きた後も長い間生き続けるのは、人間とシャチ、その他3種(ゴンドウクジラ、イッカク、シロイルカ)の哺乳類だけです。
本来、種を存続させるためには生涯にわたって繁殖することが必要でした。
しかし人間をはじめとした特定の種は、繁殖能力を失うかわりに孫や若い世代の面倒を見ることで、家族やコミュニティ全体を守る方向へと進化してきました。
このいわゆる「おばあさん仮説」や「祖母効果」と呼ばれるものは、閉経が起こる理由を進化の過程から紐解いた一つの理論として知られています。
おばあさん仮説に対しては様々な意見があり、支持する支持しないにかかわらず決定的な証拠は見出されていません。
しかし最近になって動物のおばあちゃんが孫や若い世代を世話することで、家族やコミュニティが維持されているという有力な証拠が見つかり始めています。
ヨーク大学の研究者たちは、シャチの群れの繁殖をやめた個体が、孫やグループ内の若い個体を世話していることを発見しています。
おばあちゃんによる子育ての援助は、グループ全体の生存率の向上に大きな役割を果たしています。
おばあちゃんがいるシャチの群れは、若い世代の生存率が高い
ヨーク大学が、エクセター大学や米国クジラ研究センター(US Center for Whale Research)などと協力して行った研究では、2つのシャチのグループの40年以上にわたるデータを使い、年老いた個体がグループに与える影響について調査しています。
2つのシャチのグループは、米国ワシントン州とカナダのブリティッシュコロンビア沖に生息しているシャチたちです。
シャチの個体は、独自のひれの形状や、「サドルパッチ」と呼ばれる個体によって全て異なる背びれの模様、さらには性器の周囲にある色素沈着などによって判別されました。
判別可能になったシャチから母方の祖母がいると判明した、計378頭が研究の対象になりました。
研究者はこれらのシャチの生存率のデータから、生殖能力を失ったシャチのいるグループの若い世代の個体が、そうでないグループに比べて長生きであることを発見しました。
この傾向は特に餌となるサーモンが少ないときほど顕著だったことから、グループ内のおばあちゃんが若い世代のために餌を譲るなどの世話をしていることが考えられます。
データからは、おばあちゃんが亡くなってから2年以内に、その後の若い世代の死亡率が4.5倍高くなることが示されました。
研究著者の一人であるヨーク大学のダニエル・フランクス氏は、「これは閉経期の種における祖母効果の人間以外の最初の例だ」と話しています。
シャチが生殖能力を失う理由はよくわかっていない
動物のおばあちゃんが孫や子供世代を世話する例はゾウなどでも見られます。
しかしゾウの雌は生涯繁殖することができます。
ゾウも寿命が長い動物ですが、シャチや人間のように、どうして生殖能力を失うことで群れを守る方向に進化しなかったのかは謎のままです。
研究者は、シャチのおばあちゃんがグループに良い影響を与えているのは確かだとしながらも、それが生殖能力を失ったことによる進化の結果なのかについてはさらなる議論が必要だと書いています。
また仮説として、シャチの雌がある年齢に達した後で生殖能力を失うのは、雄や娘世代との対立が関係しているからだとする考えも付け加えています。
研究チームは今後、シャチの行動を調べるためにドローンを使用することで、お互いが他のメンバーに対しどう助け合い、また害を及ぼしあうのかについて調査していきたいとしています。
人間社会でのおばあちゃんは子供や孫の世話だけでなく、人生の先輩として多くの知識や経験を他の人のために提供できるという素晴らしい能力を持っています。
そしておそらくシャチのおばあちゃんも、若い世代のために自分を犠牲にし、知恵を伝えていく能力があります。
50年以上生きるシャチのおばあちゃんに関する研究は、長生きする動物がどのように進化し、またグループに貢献してきたのかを探る重要なヒントにつながります。
ほとんどの動物は孫の顔を見る前に死んじゃうから、シャチのような長生きな動物の研究は進化の謎を解くのに重要なんだね
ちなみに動物の雄は子孫を残すのに忙しくて、おじいちゃんになっても孫の面倒を見ないんだって。ひどいよねー!
References: The Guardian