淡水魚の「リヴァイアサン」、あるいは「メトセラ」と呼ばれるチョウザメは、進化の歴史上最も古い種の一つであり、現存している魚類の96%以上の種の祖先であると考えられています。
ドイツの科学者チームは、チョウザメの一種で絶滅危惧種である「コチョウザメ」のゲノム解析を行い、彼らが恐竜の全盛期以降、外見的にも遺伝的にもほとんど変化していないことを発見しています。
チョウザメは、チャールズ・ダーウィンが「種の起源」の中で言及した“生きた化石”そのものです。
チョウザメは多くの脊椎動物の共通の祖先
チョウザメの一種「コチョウザメ」 (Credit: Andreas Hartl)
ドイツのヴュルツブルク大学や、ライプニッツ淡水生態学および内陸水産研究所などの研究者たちは、チョウザメの比較的小さな種であるコチョウザメのゲノム配列決定に成功し、この種が3億4,500万年前の石炭紀に独自の進化経路に分岐したことを明らかにしました。
科学者がチョウザメの遺伝子配列に興味を持っているのには理由があります。
Nature Ecology and Evolutionに掲載された研究の著者の一人であるヴュルツブルク大学のManfred Schartl教授は、「チョウザメのゲノムは、脊椎動物の祖先を理解するためのパズルの重要な一部分だが、これまでそのピースは欠けていた」と説明しています。
チョウザメは現存している硬骨魚類約3万種の祖先であり、半分以上の既知の脊椎動物種の祖先でもあります。
チョウザメの遺伝子の解析は脊椎動物の理解を助けるだけでなく、絶滅が危惧されているこの種の保護に役立つデータも提供します。
研究では小型のチョウザメであるコチョウザメの遺伝子を解析し、そのタンパク質進化が非常に遅いペースで進んでいることを発見しています。
進化の遅さは、ゾウギンザメ(elephant shark)や生きた化石の代表格として知られるシーラカンスの系統とよく似ていました。
ゲノム配列の解析結果は、コチョウザメのゲノムが120の染色体、47,424のタンパク質コード遺伝子、そして18億の塩基対を含むことを示しました。
またコチョウザメのゲノムは約1億8,000万年前に重複し、通常の二つではなく四つの染色体セットを持つ「四倍体 (よんばいたい)」であることもわかりました。
Schartl教授は、「ゲノムの重複は脊椎動物の進化に繰り返し大きな影響を与えてきた」と説明し、コチョウザメは、「全ゲノム重複」を2回経験してきたと付け加えています。
(ヒトを含む脊椎動物は進化の過程において2~3回、全遺伝情報が倍になる「全ゲノム重複」を経験しています)
野生のチョウザメは生息地の破壊、河川の分断、海洋汚染、そして長年にわたるキャビアの需要のために絶滅の危機に瀕しています。
コチョウザメのゲノム配列決定は、この種を保護するための重要な基礎となります。
ライプニッツ淡水生態学および内陸水産研究所のチョウザメの専門家、Jörn Gessner博士は、「将来的には、繁殖を大幅に促進する遺伝子解析を用いて動物の性別を決定できるようになる」と述べ、今回の研究を、古代の種を保存しその繁殖を支援していくための画期的な成果であると評価しています。
野生のコチョウザメはなかなか数が増えないみたい
ゲノムの解析で保護活動がうまくいくようになるといいね
References: EurekAlert