世界で最も大きい魚であるジンベエザメは、緩慢な動きと人間を警戒しない性格からダイバーや観光客に人気がある一方、その生態や寿命についてはほとんどわかっていません。
年齢に関する過去の研究では、成長とともに脊椎骨に刻まれる輪紋(りんもん)を数える方法が使われていますが、サンプル数が少なくその信頼性については疑問符がついたままでした。
絶滅が危惧されているジンベエザメを保護するためには、生態についての理解が不可欠です。
オーストラリアの科学者チームはジンベエザメの正確な年齢を把握するため、放射性炭素年代測定の手法を用いています。
1940年代後半から世界の海で行われた核実験によって海の生物の体内に蓄積した「炭素14」は、ジンベエザメの年齢を推定する手がかりになりました。
ジンベエザメは長寿命、100歳以上の個体も
オーストラリア海洋科学研究所のマーク・ミーカン(Mark Meekan)博士たちのチームは、人気のある魚でありながらその生態についてほとんど理解されていないジンベエザメの年齢を、核実験によって海に流出した放射性同位体を使って導きだしています。
放射性炭素年代測定は、炭素の放射性同位体である「炭素14」の体内での存在比率が、生物の死後に減少していくことを利用したもので、科学者は炭素14の崩壊からその生物の死んだ時期を知ることができます。
1940年代後半から50年代にかけてアメリカ、ソ連、イギリスなどが行った海洋での核実験は、大気中の炭素14の量を増加させ、それらの一部は海にも溶け込み海洋生物の体内に蓄積されました。
研究者はジンベエザメの輪紋一つ一つの中に含まれている炭素14の値を、1962年以降の海水中の炭素14のデータと比較しました。
それぞれの炭素14の比率が年ごとで変わらければ、輪紋は年齢測定の手法として大きな信頼を得ることになります。
(Justin Henry/Flickr)
研究チームは世界各国のジンベエザメの標本をあたり、台湾とパキスタンから組織サンプルを入手し炭素14の分析を行いました。
台湾の個体は、ジンベエザメの漁がまだ合法だった時期の2005年4月に捕獲されたもので、体重8.5トン、全長9.9メートルのオスで、輪紋が35個ありました。
パキスタンの個体は2012年2月に座礁したジンベエザメで、体重7トン、全長10メートルのメスで、輪紋の数は50個でした。
2頭のジンベエザメの組織サンプルの分析結果は、炭素14から推定されるサメの年齢が、輪紋から推定される年齢とほぼ変わらないことを示しました。
これはそれぞれのサメの年齢が35歳と50歳であり、また輪紋がほぼ一年で一つ追加されるものであることを意味しています。
ジンベエザメのなかには20メートル近い体長を持つものもいるため、体の大きな個体はさらに年齢を重ねている可能性があります。
ミーカン博士は、「ジンベエザメの絶対的な寿命は100~150歳くらいになるかもしれない」と説明し、この事実は、この種が過剰な捕獲に脆弱であることを示していると付け加えています。
ジンベエザメはIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストの分類において、「絶滅危惧種」に指定されています。
ジンベエザメの生態についてはいまだ不明な点が多く、保護活動も明確な指針がないまま行われている現状があります。
一方でジンベエザメはエコツーリズムにおいて主要な役割を果たしており、そこから得られる収入は一部の人たちの生活を支えています。
科学者はジンベエザメの年齢を正確に知ることが、より良い保全計画につながると考えています。
ミーカン博士は、「ジンベエザメは海洋生物の素晴らしい大使である」と述べ、ジンベエザメの生存の鍵は、彼らのたどる広大なルートに沿った国々が互いに協力することであると強調しています。
研究結果はFrontiers in Marine Scienceに掲載されました。
ジンベエザメは混獲や海洋汚染で数が減ってきてるんだよー
研究結果をもとに保全計画がうまく進んでいってほしいね
References: BBC