ビデオゲームの腕を競う「eスポーツ」の人気は年々高まりつつあり、各地で様々な大会が開催されるようになっています。
また賞金総額も右肩上がりで、海外では目が飛び出るような金額が設定されているタイトルも少なくありません。
2019年に開催された「フォートナイト」の大会では、賞金総額3000万ドルを巡って熾烈なバトルが繰り広げられました。
個人部門では、アメリカの16歳の少年が、これまでで最高額となる優勝賞金300万ドルを手にしました。
またフォートナイトよりもeスポーツとしての歴史が長い「Dota 2」では、2019年の賞金総額が3300万ドルを超えました。
こうした多額の賞金は、ゲームがもはや単なる遊びではないことを示しています。
eスポーツは今や“稼げる職業”とみなされており、ゲームに自信のある一部の若者は、真剣にプロへの道を歩もうとしています。
しかしどんな世界でも、プロとして生きていくのは容易ではありません。
eスポーツのプレイヤーは毎日過酷な練習をしている
Dota 2のイベントの模様 (Credit: Valve)
バンコク出身のアヌチャ・ジラウォン氏は、Dota 2で活躍する20歳のプロゲーマーです。
彼は毎年開催されているDota 2のイベント「The International」で優秀な成績を収めるため、所属しているチーム「Fnatic」で日夜ゲームのトレーニングに励んでいます。
ジラウォン氏は13歳からビデオゲームにのめりこみ、毎日7時間から13時間もゲームに費やしてきました。
そしてプロになってからは、さらに過酷なスケジュールをこなしています。
チームの練習は朝10時30分に始まり、夜の22時まで続きます。
しかしそれで終わりではなく、各人はスキルアップのため、午前1時過ぎまで独自の練習を行います。
また同じDota 2のプレイヤーでオーストラリア出身のダミアン・チョク氏も、ジラウォン氏と似たようなスケジュールをこなしています。
チョク氏の所属するチームのメンバーは、毎日8時間ゲームをプレイした後、個人でさらに数時間を費やしています。
食事と睡眠以外はゲームに没頭するという生活は、ゲームが好きというだけでは到底務まらない過酷なものですが、eスポーツのプロプレイヤーにとってはごく一般的な日常です。
Dota 2に参加するチームのマネジメントを行っているジャック・チェン氏によると、ほとんどのチームは、毎日8時間から16時間をゲームに費やしています。
チェン氏は、「競争は熾烈であり、ある時点で物事は遊びから仕事へと変わる」と述べ、eスポーツの本質を、「誰もが犠牲を払わなければ優位に立てないもの」と表現しています。
eスポーツのプレイヤーがネットから受ける批判や中傷
eスポーツはネットと親和性が高く、大会の結果だけでなく、個々のプレイヤーのちょっとした言動さえも拡散しやすい傾向にあります。
これはプレイヤーの精神状態に悪影響を与え、引退を決意させる要因となる可能性があります。
アメリカのスポーツ放送局ESPNのeスポーツジャーナリストであるタイラー・エルツベルガー氏は、「プレイヤーの犯した間違いは、redditやTwitterその他のオンラインフォーラムで激しい批判にさらされるが、10代の若者が何百万もの人々から受ける影響についてはほとんど理解されておらず、どう対処すべきかの指針もない」と述べています。
eスポーツのプロプレイヤーは総じて若く、その多くが20代半ばまでに引退します。
しかし引退の原因の全てが、反射神経の衰えであるかははっきりしていません。
一部の専門家は、不安や燃え尽き症候群がプレイヤーの引退を早めていると指摘しています。
長時間の練習が良い成績に結び付くとは限らない
The International 2018の優勝チーム「OG」 (Credit: Valve)
勝利するためには練習が欠かせません。
しかし何事もやりすぎは毒になります。
カリフォルニアのスポーツ心理学者であるダグ・ガードナー氏は、Dota 2のイベントに参加するチームを精神面から支える仕事をしています。
チームはこれまで、食べる、寝る、明け方までゲームをする、というサイクルを単調に繰り返していました。
eスポーツでは長時間の練習が常態化していますが、健康に配慮しなければ良い成績には結び付きません。
そこでガードナー氏は、プロのアメリカンフットボールと野球のチームを参考に、新しい練習スケジュールを組み立てました。
チームはこれまでとは異なり、起きてすぐにゲームをプレイするのではなく、まず最初にジムで身体を動かしてから、12時から18時までの6時間を練習にあてました。
そして18時以降は自由時間とし、プレイヤーがゲームから離れられる機会を設けました。
その結果、チームはより幸せを感じるようになり、健康面だけでなくゲームのパフォーマンスも向上しました。
ガードナー氏は、「午前2時や3時、あるいは4時までプレイし続けることでゲームがうまくなるとは思わない」と述べ、長時間の練習を良しとする考え方について、「量ではなく質の高い練習に焦点を合わせるべきである」と強調しています。
ただゲームが好きなだけじゃやっていけそうもない世界だね
どのスポーツでもプロになれるのは一握り……
Reference: BBC
(2019年8月の記事に加筆、訂正を加えました)