毎年ニューヨークで開催されている大食いコンテスト「ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権」は、100年以上の歴史のなかで数多くのフードファイターを生み出してきました。
大食いは競技として確立しつつありますが、他のスポーツと比べると、よりショー的なものに感じる人も少なくありません。
これは大食いというスポーツにおけるパフォーマンスの限界について知られていないことが原因かもしれません。
多くの人は、100メートルを10秒で走ることの偉大さを知っています。
しかし10分で50個のホットドッグを平らげる腸の能力について考える人はほとんどいません。
アメリカの研究者は、大食いコンテストの参加者の長年にわたるデータを使って、人間の腸の可塑性、すなわちどれだけ柔軟に伸び縮みできるのかを分析しています。
人間の腸は他のスポーツで必要とされる筋肉と同様、必要とあれば成長し大きく容量を増やすことができます。
優勝者の食べるホットドッグの数は40年で700%増加
米国ハイポイント大学の生理学者であるジェームズ・スモリガ氏は、1916年から行われているネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権の過去39年間のデータを使って、人間の腸がホットドッグを消化できる最大量を導き出しています。
ネイサンズのコンテストは10分から12分の規定時間の間に、ホットドッグをいくつ食べられるのかを競います。
最初の優勝者は13個を食べましたが、この数は年を追うごとに増えていきます。
2001年には日本のフードファイターである小林尊氏が、これまでの記録を大幅に更新する50個で優勝し、それ以後も参加者が食べるホットドッグの数は増え続けていきました。
彼らが多くのホットドッグを食べられるようになったのは、食べ方の工夫やトレーニングによるものです。
スモリガ氏は、コンテストのデータと腸の可塑性に関する従来のモデルを組み合わせた結果、人間が1分間に消費できるホットドッグの限界値は約832グラムであり、個数に換算した場合、10分間で84個に相当すると結論づけています。
参加者が食べるホットドッグの数はコンテスト開始以降着実に増加しており、特に近年は大幅な増加をみせています。
2020年の優勝者ジョーイ・チェスナット氏は、10分間で75個のホットドッグを食べました。
この記録の上昇率は、他のスポーツと比べると極端に右肩上がりです。
優勝者が1分間で消費したホットドッグの量の推移 (James M.Smoliga/Biology Letters)
他のスポーツ競技の最高記録は、記録をとり始めて以降、約40%しか上昇していません。
しかしホットドッグ選手権における最高記録は、40年で約700%上昇しました。
ここ最近の優勝者は、過去の優勝者あるいは特別な訓練を受けていない人の5倍のホットドッグを食べています。
スモリガ氏は「5倍もの開きは、マラソンの世界記録と平均的なランナーの記録の差が約2倍であることを考えると、明らかに対照的である」と述べています。
また短期間でたくさんのホットドッグが食べられるようになった要因として、参加者の増加やトレーニング技術の改善、そして賞金が出るようになったことなどを挙げています。
大食いが他のスポーツと異なる点は、腸の容量を増やすことが必ずしも健康には結び付かないことです。
スモリガ氏は、大食いの参加者の長期的な健康についてはデータが不足しているとしながらも、短期間での大量の食べ物の摂取は、過食や肥満だけでなく、満腹信号や代謝機能の障害につながる可能性もあると指摘しています。
研究結果はBiology Lettersに掲載されました。
人間はクマやコヨーテよりも速く食べることができるんだって
10分で84個……棄権してもいいですか……
References: ScienceAlert