アメリカ軍は生物工学の進化によって、近い将来強化された「スーパーソルジャー」が誕生すると考えています。
暗闇でも見ることのできる機械的な眼や、兵士の体に埋め込まれた神経インプラントによってドローンや他のシステムを制御することなど、ひと昔前のSF映画に登場するようなサイボーグ兵士の登場は現実に近づいています。
アメリカ国防総省(Department of Defence)は、2050年までにこうしたスーパーソルジャーが軍隊に存在するようになるとしています。
しかし本当にこれを実現するためには、乗り越えなければならないハードルが存在しています。
スーパーソルジャー配備の前に立ちはだかる壁
生物工学や関連する分野の進歩は急速に進み、現在医療の世界では義肢やインプラントの技術が当たり前のように使われています。
技術の進歩は人間の体の一部を機械化することで、障害を持った人の福祉に大きな役割を果たしています。
この便利な技術は医療の世界以外でも応用されようとしています。
アメリカ軍は今後数十年で、兵士の眼と聴覚、そして筋肉などを神経インプラントを通じて機械と接続し強化する未来を構想しています。
SF映画のようなスーパーソルジャーの誕生は、確実に、アメリカ軍を最強の軍隊にすることに貢献するはずです。
しかしこれを現実にするためには技術の進歩だけで不十分です。
アメリカ陸軍と国防総省の研究者であるピーター・エマニュエル氏は、現時点では、スーパーソルジャー配備に向けての準備が足りていないと指摘します。
次の30年間で法的および倫理的な不安に対処する必要があります。その準備はまだできていません。
人間の体の一部を機械化することは技術的な課題だけでなく、無数の乗り越えなければならない法的、倫理的な問題があります。
エマニュエル氏は、かつてアメリカで放映されたドラマ「600万ドルの男」を引き合いに出し、体の一部が強化された兵士が現実になった場合には、多くの問題が生じると話します。
「600万ドルの男」は、元NASAの宇宙飛行士である主人公が事故に遭い、その後人体を改造され、政府の秘密情報機関でサイボーグエージェントとして活躍するという物語です。
主人公の改造にかかった費用が600万ドルであるというのがタイトルの由来です。
物語はフィクションですが、もしサイボーグ化されたエージェントが実在していた場合、彼は人間なのか、それとも機械なのかといった倫理的な問題が発生します。
それだけではありません。
軍隊の中に強化された兵士と生身の兵士とが混在している場合、彼らの士気や仲間意識はどう変化するでしょうか。
またサイボーグ兵士には多額の費用がつぎ込まれているため、おいそれと無駄にすることはできません。
それは指揮官の重要局面での決定を誤らせる可能性につながります。
サイボーグ兵士は人間?それとも機械?
Image by Specna-Arms from Pixabay
さらにエマニュエル氏は、サイボーグ兵士のプライベートの問題についても指摘します。
半分人間、半分機械であるサイボーグ兵士にはいつの日か退役するときがやってきます。
軍隊を去った彼らは普通の人と同じ生活を送ることができるでしょうか。
また別の国に旅行する際にも注意が必要になります。
兵士が旅行を望んでいたとして、もし彼がロシアや他の敵地に行きたいとしたらどうしますか。
エマニュエル氏は、退役後のサイボーグ兵士に他の誰かがアクセスすることに対し、軍は常に心配し続ける必要があると述べています。
機械化された兵士はテクノロジーの進歩により現実のものとなりつつあります。
しかしそれが可能だとしてもやはり最後に付きまとうのは、人間とは何か、という根本的な倫理の問題です。
どこまでが人間なのか、そして人間であるということは何を意味しているのか――この問題についての明確な答えは存在しません。
エマニュエル氏は、「人間であることの意味については本当にグローバルな規範が存在しない」と述べ、サイボーグ兵士が活躍するためには、数多くの解決しなければならない問題があることを改めて強調しています。
科学とテクノロジーの進歩は人間の生活を豊かにし、それは国防という分野にも広がっています。
また医療の世界でもテクノロジーは多くの人たちの助けとなっています。
SF映画のようなスーパーソルジャーの誕生は“技術的には”可能かもしれません。
しかしそれが本当に現実になるには、乗り越えなければならない問題が山積しています。

全部が機械でできていればいいけど、半分人間だとしたらいろんな問題があるよね

スーパーソルジャーも今のところは映画やゲームの中だけの存在ということだな
References:Business Insider