アメリカの研究者は、普段ならば喜んで仲間を助けるネズミが、特定の条件下ではそれを行わない場合があることを発見しています。
困っている人が近くにいても助けようとしない心理は「傍観者効果」として知られています。
これは1964年にアメリカで起こった事件によって有名になった集団心理のメカニズムで、緊急事態を目撃している人間が多ければ多いほど誰も助けに入らないというものです。
傍観者効果が人間に特有の心理であるかどうかは、長い間謎のままでした。
新しい研究は、ネズミの集団にも傍観者効果が発生することを明らかにしています。
傍観者効果は人間だけがもつ集団心理ではない
米国シカゴ大学の生物学者であるペギー・メイソン氏の研究チームは、窮地に陥っている1匹のネズミに対し、他の個体がどう反応するのかを調べる実験を行っています。
メイソン氏のチームは以前の研究で、ネズミが非常に愛情深く、困った仲間をすぐにそして何度でも助けることを確認しています。
実験ではアクリルチューブに閉じ込められた1匹のネズミを、複数のネズミに観察させました。
アクリルチューブは簡単な構造をしており、外から力を加えれば身動きの取れないネズミを救出することができます。
最初の実験では、ネズミに介入を行わず状況を見守りました。
このとき自由なネズミは、身動きのとれないネズミをすぐに助けました。
また自由なネズミの数が増えるほど(観察者が増えるほど)、救出の速度も上昇しました。
しかしネズミに鎮静剤を与えると状況は一変します。
(David Christopher/University of Chicago)
鎮静剤を与えられたネズミは、困っているネズミを見ても関心を示さず傍観者に徹しました。
また集団の中に薬を投与していないネズミを1匹だけ入れた場合、その個体は、最初の1回だけは困っているネズミを助けますが、2回目以降は周囲の雰囲気に飲まれるように救出の意欲を失いました。
彼らは困っているネズミへの関心を失う一方、チョコレートがたくさん入ったアクリルチューブは喜んで開けました。
これらの結果は、条件が揃えば、ネズミにも傍観者効果が表れることを示しています。
メイソン氏は傍観者効果について、「文化や教育、学習などから生まれるものではなく、哺乳類としての生物学的遺伝に由来する」と説明し、人間に特有のものではないと結論づけています。
傍観者効果についてはどんな状況にも当てはまるものではなく、むしろ他人がいると人は積極的に助け合うとする研究結果も発表されています。
英国ランカスター大学の社会心理学者であるマーク・レヴィン氏は最近行った研究で、他者の存在が、危険な状況への介入意欲につながっていることを発見しています。
1人以上の傍観者がいる事件を記録した監視カメラの分析では、その10件中9件で、誰かが何らかの手助けをしていました。
レヴィン氏は、傍観者効果は限定された状況(ネズミの場合は鎮静剤)で起こるものであり、本来人間もネズミも他者を助けるのは自然のことであると述べています。
研究結果はScience Advancesに掲載されました。

ネズミは馴染みのない集団に対しては救助をしないこともあるみたい

人間だけは相手が誰であっても助ける存在であってほしい……
References: NPR