イギリスのシンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所 (RUSI)」は、国家安全保障の目的でAIを使用することは、既存のプロセスの効率と有効性を向上させると報告しています。
レポートは「政府通信本部 (GCHQ)」の委託を受け、諜報機関や法執行機関、さらには民間企業や法律の専門家などから集めたデータを元に作成されたもので、イギリスの諜報活動に将来AIが使用される可能性を示唆するものです。
RUSIは、「敵対勢力は間違いなくAIを使ってイギリスを攻撃してくる」とし、また警戒対象には犯罪者も含まれることになるだろうと付け加えています。
AIは国家を脅かす犯罪に利用される可能性がある
レポートではAIを使った脅威に、「ディープフェイク」や、サイバー攻撃をしやすくするためのマルウェアの改変などを挙げています。
ディープフェイクは、AIによって画像と映像を組み合わせ、実在の人物のような説得力のあるフェイク映像を作成することができ、世論や選挙を操作するために使われる可能性があります。
またサイバー攻撃は、重要なシステムへのハッキングだけでなく、ドローンを操り攻撃手段に変えることもできます。
RUSIはこうしたケースを想定した場合、諜報機関はますますAIによって対抗せざるを得なくなるだろうと指摘しています。
レポートの著者の一人で、RUSIの国家安全保障研究員であるアレクサンダー・バブタ(Alexander Babuta)氏は、「悪意のある行為者がAIを使ってイギリスを攻撃する可能性がある」とし、情報機関は防衛策にAIを取り入れる必要があると強調しました。
RUSIの分析に協力した政府の情報機関「MI5 (保安局)」の新しい責任者であるケン・マッカラム(Ken McCallum)氏は、機械学習を含むテクノロジーの活用は優先事項の一つであると述べています。
AIの使用には人権や倫理面での問題がつきまとう
「マイノリティ・リポート」に登場する犯罪を予知する能力者 Ⓒ 20thCentury-Fox
RUSIはAIの重要性を強調しつつも、テロ対策などの分野においては、その力は限定的であるとも指摘しています。
AIの予測能力を描いたフィクションとして有名な映画「マイノリティ・リポート」には、犯罪を未然に防ぐことのできる予知能力システムが登場しますが、レポートでは、このような活用は現実的ではないと釘をさします。
テロなどの犯罪行為はパターンを特定するだけのデータセットが足りず、また頻度の高い強盗などの犯罪であっても、犯罪者の背景やイデオロギーがそれぞれに異なるため、プロファイルのモデルを構築するのは困難です。
またあらゆるプロファイルは差別的でもあるため、仮に多すぎる変数を制御し予測が可能になったとしても、それは新たな人権問題につながる可能性があります。
レポートはAIの使用に関して、「ブラックボックス」のように機能するのではなく、人間が決定の責任を負うような仕組みを作る必要があると結論づけています。
イギリスには情報機関であるGCHQのほかに、人工知能の研究で名高い「アラン・チューリング研究所」や、AIに関する調査、監督を行う「データ倫理・イノベーションセンター」など、最先端のAI研究機関が存在しています。
イギリスはAI分野において世界をリードする地位にあります。
レポートの著者は、AIは既存のプロセスの強化につながる可能性があるが、倫理の枠組みの範囲内で利用されなければならないと強調しています。

AIに任せっきりの未来はちょっと怖い……

AIが人間の仕事を手助けするくらいが理想だね