太陽風の謎を解き明かす!ESAの太陽観測衛星「ソーラー・オービター」が打ち上げに向けた最終調整を完了

宇宙
Copyright: ESA/ATG medialab

ESA(欧州宇宙機関)は、2020年2月に打ち上げ予定の太陽観測衛星「ソーラー・オービター(Solar Orbiter)」の動作テストが完了したと発表しました。

ソーラー・オービターはESAがNASAと協力して開発した無人観測衛星で、2018年に打ち上げられたNASAのパーカー・ソーラー・プローブと同様、太陽の様々な活動を観測することを目的に作られました。

 

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太陽の極に近づくソーラー・オービターの耐熱設計

 

ソーラー・オービターはエアバス社が設計を担当し、英国のスティーブニッジで製造されました。

ソーラー・オービターのプロジェクトは1990年代後半に始まりましたが、製造契約がまとまったのが2012年で、その総建設費用は15億ユーロにも及びます。

製造に際し最も重要な課題は、太陽に近づくことで生じる高熱にいかにして耐えることができるか、という点でした。

ソーラー・オービターには、太陽の磁場を観測し、定期的に発生する太陽風のメカニズムを解明するという使命があります。

またこれまで他の宇宙船や地球からの観測だけでは不十分であった、太陽の極部分を観測、撮影することも重要な任務です。

 

宇宙船はミッション遂行のために、太陽から4,200万キロメートルまで近づく必要があり、その地点での温度は最大で600度もの高温になります。

そのためソーラー・オービターには、猛烈な太陽からの熱を遮断し観測機器を守るための特別なチタン製の防御シールドが搭載されています。

観測機器はこのシールドの後ろに常に隠れるように設置されます。

また防御シールドと合わせて複雑なラジエーターも搭載されており、シールド自体を冷却することもできるようになっています。

 

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ソーラー・オービターの自動回復システム

 

Copyright: ESA – S. Corvaja

 

ソーラー・オービターは7年の調査期間を予定しています。

しかし宇宙探査にはトラブルがつきものです。

観測機は太陽という高温の星に近づくため、ちょっとした機器のトラブルが発生しただけでも、ミッションの継続が困難になってしまうおそれがあります。

このためソーラー・オービターには、洗練された障害回復システムが取りつけられています。

 

設計を担当したエアバス社のイアン・ウォルターズ氏は、障害回復システムについて次のように述べます。

 

ちょっとでもポイントを外せばすぐに熱的な困難に直面してしまいます。そのためソーラー・オービターにはあらゆる障害に対し50秒以内に回復するシステムが組み込まれています。実際には22秒以内に通常の状態に戻ることができるでしょう。

 

ソーラー・オービターはその設計上、常に観測機器が耐熱シールドの後ろに隠れるようにできていますが、何らかのトラブルによって姿勢がずれてしまえば機器がすぐに燃え尽きてしまう可能性があります。

また地球で異変に気付いたとしても、修正プログラムを送る際のタイムラグにより復旧が間に合わないことも想定されます。

そうした事態を避けるようソーラー・オービターには、自らを回復させる手段が用意されています。

 

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太陽風への理解は地球を守ることにつながる

 

Copyright: ESA/ATG medialab

 

ソーラー・オービターの耐熱シールドには、太陽を観測するための“のぞき穴”があります。

これは常に開いているわけではなく、必要な場面に応じて短時間だけ開くカメラのレンズのような役割を果たします。

ソーラー・オービターは過去の観測機がなし得なかった様々な太陽の画像を撮影するように設計され、特に太陽の極の地域の撮影には大きな期待が寄せられています。

※現在太陽を観測しているNASAのパーカー・ソーラー・プローブは太陽に近すぎるため、画像を撮ることができません。(パーカー・ソーラー・プローブの太陽からの距離は平均で600万キロメートルです)

 

フランスのオルセーにある天文物理学研究所の主任調査官であるフレデリック・オーシェール氏は、太陽の極を見ることができるのはとても重要だと語ります。

 

誰も太陽の極を見たことがありません。しかしこれらの地域は重要です。太陽の極は非常に速い太陽風の源であり、太陽の活動と周期を理解する鍵がここにあるからです。

 

太陽風は宇宙船で活動する宇宙飛行士の健康状態だけでなく、地球にも様々な悪影響を及ぼします。

米国科学アカデミーによる試算では、太陽風が地上の送電網を狂わせ電力の供給が滞った場合、最悪で1年の間に2兆ドルもの損害が発生します。

太陽風やその仕組みについて知ることは、地球に住む私たちの日常生活を守ることにもつながっています。

 

 

 


 

ソーラー・オービターはパーカー・ソーラー・プローブとデータを共有し、同じ太陽を知るための観測機として強力なタッグを組むことになっています。

先日パーカー・ソーラー・プローブは、歴史上初めて太陽風が宇宙空間に拡散している様子を画像としてとらえています。

ソーラー・オービターの活動によって、人類は太陽についてさらに多くのことを知るようになります。

 

ソーラー・オービターは2020年の2月6日に、アメリカのケープカナベラルから、NASAが提供するAtlasV411ロケットによって打ち上げられる予定です。

 


 

 

しぐれ
しぐれ

こんなに身近にあるのに太陽のことってあんまりよくわかってないんだね

ふうか
ふうか

ソーラー・オービターが太陽を観測することで、今までわからなかった太陽風の秘密に一歩近づくことができるだろう

 

References:ESA,BBC