NASA(アメリカ航空宇宙局)とESA(欧州宇宙機関)が共同で開発、運用する太陽探査機「ソーラー・オービター(Solar Orbiter)」が9日、アメリカのケープ・カナベラルから打ち上げられました。
アメリカ時間の9日午後11時3分に打ち上げられたソーラー・オービターは、太陽電池パネルが正常に展開したことを示す合図を地上に送り、翌午前12時24分に、ドイツのダルムシュタットにあるESAの欧州宇宙運用センターが信号を受信しました。
探査機はこの後2日間かけて、搭載されている複数の機器と、地球と科学データをやり取りするためのアンテナを展開していきます。
太陽の極に近づき磁場の謎に迫るソーラー・オービター
Credits: ESA/ATG Medialab
ソーラー・オービターは太陽の極を観測するために設計された探査機で、約3カ月間の試運転を経た後、金星や地球をスイングバイし段階的に太陽に接近します。
地球は太陽の赤道に対して平行に公転しているため、極の方面を地上から観察することができません。
1990年に打ち上げられたNASAとESAが共同で運用した探査機「ユリシーズ(Ulysses)」は、太陽の極方面を初めて観測し太陽に関する重要なデータを科学者に届けましたが、カメラを搭載していなかったため画像を取得することができませんでした。
ソーラー・オービターにはカメラが搭載されているため、ミッションが順調に進めば、太陽の極を画像として初めて記録することになります。
ESAの科学ディレクターであるギュンター・ヘイジンガー(Günther Hasinger)氏は、太陽の観察と太陽の機能について知ることの重要性に触れ、「ソーラー・オービターのミッションが終了するまでには、太陽の隠された力と惑星への影響力についてかつてないほどよくわかるようになるだろう」と話しました。
太陽の活発な動きは時に、地球やその周囲を飛ぶ衛星に多大な影響を及ぼします。
太陽が放出する太陽風やそれによってできる太陽嵐は、地上の通信施設や人工衛星に打撃を与え、宇宙ステーションで活動する宇宙飛行士の健康を脅かすことができます。
科学者は太陽の原動力がその磁場にあると考えていますが、それを証明しまた深く理解するためには極方面の観測が不可欠になります。
NASAのプロジェクト科学者であるホリー・ギルバート(Holly Gilbert)氏は、「宇宙の気象現象を予測するには、太陽のグローバルな磁場のかなり正確なモデルが必要である」と述べ、太陽の極を観察するソーラー・オービターの活躍に大きな期待を寄せました。
ソーラー・オービターはパーカー・ソーラー・プローブと共に太陽を観測する
ソーラー・オービターは2020年の12月と2021年の8月に金星、そして2021年の11月に地球をスイングバイし太陽までの距離を縮め、2022年には太陽から約5,000万キロの地点に到達し、極方面での観測を開始する予定となっています。
また極に近づく間も、太陽付近の電場や磁場などの科学データを収集します。
NASAの科学部門の副責任者であるトーマス・ザブーケン(Thomas Zurbuchen)氏は、「ソーラー・オービターは素晴らしい仕事をします」と述べ、太陽を研究するために2018年に打ち上げられたNASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」のデータと組み合わせることで、太陽についてこれまでにない知識を得ることができると説明しました。
そして、ESAと共に行うソーラー・オービターのミッションが太陽の研究を変革し、太陽物理学の新しい時代を開くことになるだろうと話しています。
ソーラー・オービターに搭載された10個の科学機器のうち9つはESAが提供し、NASAは、太陽のコロナの構造や動きを観測するための「ソーラー・オービター・太陽圏イメージャー(Solar Orbiter Heliospheric Imager-SoloHI)」と、ESAの機器に使用される太陽風を観測するためのセンサー、および重イオンセンサーを提供しています。
ソーラー・オービターのミッションは少なくとも7年間行われ、その後ミッションの追加が承認されればさらに3年間継続されることになっています。
ソーラー・オービターとパーカー・ソーラー・プローブは協力して太陽の観測を行うということだ
地上からはハワイにあるダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡が協力するんだよー
太陽の極にはどんな秘密が隠されているんだろう……
References: NASA