ティラノサウルスに勝利する意外な動物がいた

動物

T.レックス(ティラノサウルス)と言えば恐竜界の大スターです。

彼らの前では獲物は縮こまるしかありません。

実際絶滅するまでは地球上で最強の肉食恐竜だったティラノサウルスですが、その恐ろしさを表すものの一つが咬合力(こうごうりょく――かみつき力)です。

3トン以上もの力を出すことができ、現在地球に存在している最も強い咬合力を持つワニなどの数倍から数十倍以上とされています。

 

そのティラノサウルスに対して咬合力の分野で圧倒的に勝利する動物が発見されています。

咬合力は基本的に身体の大きさに比例して強くなるものですが、この動物はその見た目からして小さくむしろ可愛い部類に入ります。

一体どんな動物がティラノサウルスよりも強力な顎(あご)を持っているのでしょうか。

 

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ガラパゴスフィンチ――独自の進化を遂げたかみつき力

 

ガラパゴスフィンチ Image Credit:putneymark,Wikimedia Commons

 

絶滅した生物と現存している生物の持つ咬合力について研究者たちが調べた結果、ある鳥がT.レックス以上の咬合力を持っていることがわかりました。

英国王立協会の雑誌Proceedings Bに掲載された研究は、ガラパゴス諸島に住むガラパゴスフィンチ類と呼ばれる鳥の仲間が、ティラノサウルスの咬合力の320倍もの力を持っていることを明らかにしています。

この研究の目的は咬合力を測り比較することで、彼らの食事が進化に与えた影響を探るためのものです。

 

イギリスレディング大学の生物科学者で研究の主執筆者であるManabu Sakamoto氏は、ティラノサウルスが持つイメージから推測されるあごの力は、実際にはそれほどでもなかったと述べます。

 

これまで考えられてきたのと違い、T.レックスの咬合力は彼らに進化上の優位性を与えたものではありませんでした。

 

Sakamoto氏は、ティラノサウルスのような大型の捕食者はその大きすぎる体格のため、それほど大きな咬合力を必要としなかったのではないかと推測しています。

 

研究では絶滅している種も含む400以上の動物種のデータを使い、噛む力と食事が進化にどのような影響を与えたのかを探っています。

通常身体が大きいほど噛む力も大きくなると思われますが、今回示された結果は必ずしもそうではないことを明らかにしました。

 

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T.レックスの320倍もの噛む力は変化に適応するためだった

 

オオガラパゴスフィンチ Image Credit:Lip Kee Yap,Wikimedia Commons

 

ガラパゴスフィンチの体重は1オンスほど(約33g)しかありませんが、その噛む力は70ニュートン(約7kg)もあります。

一方でティラノサウルスの噛む力は57000ニュートン(約5,700㎏)と推定されています。

(人間の場合は個人差もありますが、大体自分の体重分くらいの咬合力を持っているとされています)

 

数値だけをみると両者の咬合力の差は歴然としています。

しかし2つを同じ条件――体長や体重を同じ縮尺――にしてみると、ガラパゴスフィンチが圧倒的に勝っていました。

研究が導き出した答えは、ガラパゴスフィンチはT.レックスよりも320倍噛む力が強いというものでした。

 

ではなぜこんなことが起きたのでしょうか。

Sakamoto氏は、ガラパゴスフィンチが環境に適応する過程で、あごの力を進化させる必要があったためだと指摘しています。

 

チャールズ・ダーウィンが進化論を提唱するきっかけになった場所として有名なガラパゴス諸島には、複数のガラパゴスフィンチ類が生息しています。

木の実を食べるものや虫を食べるものの他に、なんでも食べる雑食性のものや中には吸血する個体もいます。

同じ種の鳥でありながら多様性を持つガラパゴスフィンチは、ダーウィンをはじめとした研究者の関心を引きました。

そして科学者たちはやがてこの鳥が、絶海の孤島でありまた火山地質であるガラパゴス諸島の独特の環境に適応し、進化を遂げたと考えるようになります。

現存しているガラパゴスフィンチの仲間には固い木の実を好む種がいます。

彼らは生存のために他の種があまり食べないものを食べることで、あごの力を強化するよう進化してきたと考えられています。

 

一方のティラノサウルスは巨大な体格のおかげで、噛む力を進化させる必要がありませんでした。

彼らの巨大さは獲物をたやすく死に至らしめ、鋭い歯は簡単に獲物の肉を引き裂くことができました。

 

ティラノサウルスが大きな獲物を難なく噛むことができるようになるまでに何千万年もの時間が必要だったのに対し、ガラパゴスという特殊な環境に適応したガラパゴスフィンチが強い咬合力を得るには、100万年以内の時間しかかからなかったと推測されています。

 


 

今回の研究結果は生物の環境に対する適応力をよく表しています。

では人間も、固いものだけを食べていればあごが強くなるのでしょうか。

 

Sakamoto氏によれば、おそらくその可能性は低いでしょう。

 

人間は調理することを学んだ結果、噛む力がそれほど重要ではなくなってしまいました。しかし調理鍋を発明したことは、人間が他の生物よりも噛む存在であることを示してもいます。

 

ガラパゴスフィンチは鍋を作る前に噛む力を発達させました。

しかし人間はあごを強化する前に鍋を発明したのです。

 

鍋や調理方法のおかげで人間はあらゆる固いものを食べることができるのですから、これもまた一つの進化のあり方だと言えますね。

 

レディング大学が今回の研究結果を動画にしています T. rex vs Finch – Who would win?

 

 

 

 

 

References:royalsocietypublishing,livescience