オランダユトレヒト大学の研究者は、毒蛇と同じ成分を持つヘビ毒を実験室で作成することに成功しています。
毎年10万から15万の人が毒蛇に噛まれて命を落としていますが、世界中の抗毒素の在庫はその半分にも満たない状況です。
従来の抗毒素は実際のヘビの毒を馬の体内に注入して作られるため、完成した血清を人に使用した場合、発疹やかゆみといった軽い症状のものから、ときには重篤なアナフィラキシーショックのようなものまで様々な副作用を起こすことがあります。
一方、実験室で培養されたヘビ毒を使えば、副作用の少ない抗毒素を作ることが可能です。
実験室で作られたヘビ毒は副作用の少ない抗毒素の開発につながる
オランダユトレヒト大学の分子生物学者、ハンス・クレヴァース氏が率いる研究チームは、幹細胞を使って、ナミビアサンゴコブラ(Aspidelaps lubricus)とその他の8種の蛇の毒腺を作りだすことに成功しています。
クレヴァース氏は2009年に、「オルガノイド」と呼ばれる試験管内で作られる人工的な臓器の技術を発明し、それ以後医師は、特定の薬の効果を人間の体を使わずに試すことができるようになりました。
研究室はこの技術を蛇の毒腺に用いることで蛇の毒を作成し、それが実際の蛇のものと全く変わらない成分を持つことを発見しました。
研究チームに所属していた博士課程の3人の学生が、いつも行っているヒトの腎臓や肝臓、および腸を再生することに“飽き飽き”したことから始まった蛇の毒腺の再現は、彼らが考えていた以上にうまくいきました。
学生たちは調達業者からいくつかの蛇の卵を手に入れた後、幹細胞を含む蛇の組織を採取し、オルガノイドで使用される技術を用いて、それを培養皿の上で成長させられることを発見します。
幹細胞は自己複製し無限に増殖できる細胞のことで、これに関する実験はこれまでにヒトやマウスで行われてきましたが、誰もそれを蛇で試そうとした人はいませんでした。
その後、培養皿で成長した毒腺のなかから、少なくとも4つの異なるタイプの毒ペプチドが特定され、それらは生きている蛇の毒と類似していることがわかりました。
クレヴァース氏は、「培養によって作られた毒は、同じ種類の蛇の毒と全く同じ成分だった」と述べ、また作られた毒が、本物の蛇の毒と同様に筋肉細胞に働きかけ、動きを停止させることを確認したと付け加えています。
Image Credit: Wellcome Trust
(世界では5分ごとに50人が蛇に噛まれ、そのうちの25人に毒が注入され、4人が回復不能な障害を負い、1人が死亡しています。英国ウェルカム・トラストのデータより)
実験室で安全に蛇の毒を作ることができれば、抗毒素の安定的な供給を期待できます。
イギリスの医学研究の支援を目的とする団体ウェルカム・トラストの調査によると、現在世界のヘビ毒による死者のほとんどが、アジアとアフリカの貧しい農村部の住民であり、彼らは仮に抗毒素の在庫が十分だったとしてもそれを買う経済的な余裕がありません。
実際には世界の抗毒素の在庫は必要とされている数の半分にも満たず、また血清の種類は全ての毒蛇の60%ほどしかカバーできていません。
また抗毒素は一本の価格がおよそ160ドルと高額で、通常治療時には複数利用されるため、蛇の毒で死亡する人の数を減らすには、より安価で安全な抗毒素が必要な状況です。
クレヴァース氏は今回の研究によって、将来的には、世界に生息している600種の毒蛇の毒腺のバイオバンクを作成することで、科学者は無制限の量のヘビ毒を使えるようになると話しています。
研究チームは現在、世界で最も有毒な50種の毒蛇から、オルガノイドを使って毒腺を作る計画を立てています。
ヘビの毒の研究が進まないのは、製薬会社があまり関心をもっていないのも理由にあるみたい
いろんな毒蛇の血清が作られればたくさんの人が助かるようになるねー
References: CNN,ScienceAlert