人間を含む動物の脳の大きさはその社会性と密接に関連しています。
脳が大きい動物ほど社会性があるというのは通説ですが、最近行われた鳥の観察によると、社会性の発達と脳の大きさとの間には相関性がない可能性があります。
アフリカに生息するある鳥たちは、自分たちの群れを守るために他者とうまく共存することができます。
フサホロホロチョウは仲間を認識し、群れのために一緒になって行動する
Current Biology誌に掲載された研究は、アフリカに生息しているフサホロホロチョウ(vulturine guinea fowl)を12カ月にわたって観察しています。
ケニアで観察されたフサホロホロチョウの群れは440匹以上で構成されており、それはさらに18のグループに分けられていました。
この群れは眠る場所が同じですが、日中の活動は個別のグループで行います。
研究者たちが驚いたのは、眠りから覚め外に出ていく際に鳥たちが元のグループにすんなりと戻れることでした。
またそれらのグループは他のグループとの間で争いを起こすことがなく、非常にまとまって行動することができました。
これはフサホロホロチョウが他者を正確に認識、区別できることを表しており、また複数のグループが揉めることなく一か所をねぐらにすることができるのは、群れ全体に社会性が存在することの証です。
研究を行ったドイツのマックスプランク研究所の動物学者、ダナイ・パパジョルジュ氏は「我々が知る限り、このような鳥の社会構造について記述されたのは初めてのことです」と述べています。
マックスプランク研究所とコンスタンツ大学の共同研究チームは、フサホロホロチョウの各グループを追い、それらと他のグループとの関係、また群れ全体との関わりなどについてさらに調査を進めました。
チームは18のグループに属する鳥58羽にGPSデバイスを取りつけ一日の動きを記録していきました。
すぐにチームの目に留まったのは、水飲み場へ群れが移動するときの行動でした。
フサホロホロチョウの18のグループは、水飲み場に向かう際にその全てが集まり、1つの集団として15㎞先の目的地まで歩いて移動しました。
これは鳥たちが水を飲むという目的のためにグループではなく群れ全体を優先したことを意味しています。
この動きについて主任研究者であるマックスプランク研究所のダミアン・ファリーヌ氏は、フサホロホロチョウは生存率を高めるために集団での生活に依存していると述べます。
フサホロホロチョウは大きくてカラフルなので、多くの捕食者にとって目立つ存在です。彼らは捕食者に見つかる前に気づくことができるようお互いに依存しています。
フサホロホロチョウの見た目は実際派手でカラフルであり、捕食者からすれば見つけやすい餌として映ります。
またフサホロホロチョウは危険を感じたときに飛ぶのではなく走って逃げるため、いかに危険を早く察知できるかは生存率に大きく関わる要素となります。
水飲み場は鳥だけでなく多くの捕食動物が集まる場所であることから、フサホロホロチョウが固まって移動するのはとても理にかなった行動であると言えます。
また追跡調査では、空気が湿っているときには餌の豊富な広い草地に一緒になって移動したこともわかっています。
フサホロホロチョウは他の個体を“友人”とみなしている
Individual at Samburu National Reserve,Sumeet Moghe Wikipedia/CC BY-SA 4.0
こうしたまとまった行動自体は他の鳥の種でも見ることができます。
しかしファリーヌ氏は、フサホロホロチョウほど集団生活をしている鳥類はなく、なぜ彼らがそのような複雑な社会性を持っているのかを知ることが研究の次のステップだと話しています。
ファリーヌ氏は、複雑な社会が作られるには、通常その動物が非常に大きくそして安定した集団でなければならないと述べています。(人類はまさにそれに当てはまります)
この考えは、“社会性は脳の大きさに比例する”という従来のものです。
しかしフサホロホロチョウの脳は他の鳥類と比べ著しく大きいというわけではありません。
にも拘わらず大集団の中に小さなグループが存在し、その一方で危険回避のためにグループが集まり群れ全体のために行動できるというのは、これまでの常識を覆すものです。
ファリーヌ氏は、フサホロホロチョウの群れの行動は鳥類の社会性に関する前提を変えるかもしれないと述べます。
この発見は複雑な社会の根底にあるメカニズムに対して多くの疑問を提起しています。そしてなぜフサホロホロチョウが霊長類に匹敵するような社会システムを進化させたのかを追求する可能性を開いています。
多くの鳥類もグループで生活していますが、彼らは縄張り意識が強く他のグループとの関係性を欠いていることがほとんどです。
その点フサホロホロチョウは、グループ同士がいがみ合うこともなく互いに積極的に関わりあうことができます。
研究者は、フサホロホロチョウが自分の属していないグループの鳥全てを認識しているかはわからない、としています。
しかし鳥たちは互いを“友人”として見ている可能性があります。
ファリーヌ氏は動物の社会性について研究していく中で、「友人」を持つことの効果について学ぶことが多いと話します。
友人を持つことには多くの機能的な理由があり、例えばストレスを減らすことで気分がよくなるなどの恩恵を動物たちも得ている可能性があります。
フサホロホロチョウは、相手と良い関係を築くことが群れ全体の利益にもつながることを理解しています。
追跡データからは、フサホロホロチョウが数週間から数カ月の間に何百という個体と出会っていることが明らかになっています。
彼らが互いのことをどれだけ知っているのかは今後の調査を待たなければなりません。
しかしフサホロホロチョウが見せる社会性には秩序があり、彼らは自分たちの利益を守るために積極的に群れを優先することができます。
フサホロホロチョウの研究は、脳の大きさは社会性と関係がないこと、そして互いが“仲良く”することが群れの存続のための最適な選択であることを示しています。
仲良きことは美しい……だけじゃなく実利的でもあるのだな
鳥も人間もみんな仲良しなのが一番!
References:CNN