お手もお座りも覚えないペットもそれはそれで可愛いものですが、出来るものならば一つくらい芸を仕込みたいと思うのが飼い主の勝手というものです。
しかし動物も人間と同じように個体差がありますから、覚えのいいものもいればそうでないものもいます。
どんな犬が賢くまたそうでないのかについては諸説あり、はっきりと特定できる要因はこれまでに見つかっていません。
研究者は犬の賢さが脳の大きさに関連していると考えています。
最近行われた新しい研究は、大型犬が小型犬よりも賢いかもしれないことを明らかにしています。
脳の大きさは短期記憶と自制心に影響する
Animal Cognitionに掲載された新しい研究は、脳が大きい犬はそうでない犬に比べて知能テストでより優れた結果を残すことが明らかにしています。
これは脳の大きさが犬の賢さの全てに影響しているわけではなく、短期記憶と自制心の分野においてでのみ確認されたものです。
アリゾナ大学の犬認識センターの研究者は、74の品種からなる7,000匹以上の純血種の飼い犬データからこの結果を導き出しました。
飼い主はペットに対して2つの実験を行いました。
1つめは中身の見えない2つのコップの中のどちらかにエサを隠すという実験です。
飼い主は犬が見ている前でどちらか一方にエサを隠します。
その後、犬がエサを隠した場所をどれだけ長い間記憶しているのかを測ります。
60秒待たせてから犬を放し始め、その後90、120、150秒と待つ時間を長くしていきました。
その結果、待つ時間が長くなればなるほど、小型犬のほうがコップの中のエサを当てられなくなりました。
2つめの実験は自制心をテストするものです。
まず犬にお座りをさせてからエサの入った容器を目の前に置きます。
そして飼い主は犬に対してそのエサを食べないように命令します。
その後、飼い主は犬を見たり、自分の目を覆ったり、または犬から目をそらしたりしました。
その結果、大型犬のほうが小型犬よりも飼い主の命令をより長い時間守ることがわかりました。
小型犬ほど、飼い主の命令よりも餌の誘惑に従うことを選択しました。
研究結果が犬の全ての知性に関連するわけではない
主任研究者であるDaniel Horschler氏は、「この結果が犬の全ての知性について説明するわけではない」と述べています。
Horschler氏は、これはあくまで短期記憶と自制心の2点についての結果であり、社会的な知能においてはこの限りでないと付け加えています。
同氏は、例えば人間が指差した場所に向かう、といったジェスチャーに関するものについては脳の大きさとは関係がないことを指摘しています。
ではなぜ限定的な部分では有意な差が出たのでしょう。
その点についてHorschler氏は次のように述べます。
これはニューロンの数やその接続性の違いではなく別の何かが起こっていることの表れです。確かなことはまだ分かりませんが、その深い部分にあるものを理解することが重要です。
これまでの脳の研究は、ほぼ霊長類に限って行われてきました。
霊長類の脳の大きさは実行機能(今回の実験のような複雑な状況を制御する機能)に関連していることがわかっていますが、他の種類の知性とは関連がありません。
今回犬についても同様の結果が出たことは、脳の進化をひも解く上での貴重な発見といえます。
Horschler氏は犬の種類によって脳の大きさがかなり異なることを指摘し、今後様々な品種の認知能力についての比較研究を行いたいと意欲を述べました。
そして行動の違いが脳の大きさに起因するのか、それとも何か別のものが影響しているのかについて研究を進めていきたいと語っています。
研究データは民間のウェブサイトから提供されたものです。
そこでは飼い主が自分のペットに対して今回のような実験をさせ、その結果をアップロードするという形式をとっています。
全てが同じ環境ではないことがデータとしての信頼性に関わることが懸念されましたが、Horschler氏のチームは、犬が訓練を受けていたかどうかに関わらず、大型犬は小型犬よりも短期記憶と自制心を持っていると結論づけています。
犬の知性と適応力
この結果については、まだ断定すべきではないという態度をとっている研究者たちもいます。
生物学者のMarc Bekoff氏は、犬や動物には複数の知性があり個人差があると指摘します。
Bekoff氏はメキシコで遭遇したある犬を例に挙げました。
その犬は生きていくためにストリートをさまよい食べものをひったくる行動に長けていました。
しかし犬は誰に対しても攻撃的というわけではなく、犬を捕まえようとする者や明らかに自分を嫌っている者などを巧みに避けていました。
またBekoff氏は、自分の飼っていた犬が自分や周りの人間の目を盗み食べ物を簡単に手に入れることができた例を挙げ、犬は環境に対して柔軟な適応力を持っていると強調しました。
そしてこうした事例から今後も多くの研究が必要であり、今回の結果をもって大型犬が小型犬より賢いとは言えないと語りました。
今回の研究結果はあくまで限定的な行動においてのものです。
どんなに訓練された犬でも目の前においしそうなエサがあったら食べたくなるのが道理というものです。
30秒か60秒の差があったところで知能について目くじらをたてることもありません。
もちろん個体差があるのでバツグンの記憶力を持った小型犬もいれば、のんびりでぼーっとしている大型犬もいるはずです。
でもそれでいいのではないでしょうか。
どっちが頭がいいとか悪いとかなんて些細なことにすぎません。
一緒の時間を過ごせる――たったそれだけでペットも飼い主もハッピーなのですから。
References:BusinessInsider.com.au