カタツムリ、故郷に帰る――「ポリネシアマイマイ保全プログラム」が示す生態系復活の可能性

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Image Credit:ZSL

ロンドン動物学会(Zoological Society of London-ZSL)は、故郷を追われた絶滅危惧種のカタツムリを繁殖させ、元の居場所であるポリネシアの島々に返す取り組みを始めています。

フランス領ポリネシアにはかつてポリネシアマイマイ(Partula snail)と呼ばれるカタツムリがそれぞれの島に独特の進化を遂げた形で生息していました。

しかしフランス領になった後、食用として島に移植された「アフリカマイマイ」によって彼らの生存には暗雲が立ち込めることになります。

 

アフリカマイマイはカタツムリを食べることが習慣でもあるフランス人にとってなくてはならない食材でした。

しかし雑食性のアフリカマイマイは他の種や作物を食べてしまう貪欲な捕食者であり、海洋で孤立している島の生態系を破壊してしまいました。

これに頭を痛めたフランス人はアフリカマイマイに対抗できる秘密兵器を導入します。

それが「ヤマヒタチオビ」です。

ヤマヒタチオビは肉食性で他のカタツムリを餌とすることから、アフリカマイマイを駆除する目的で世界のさまざまな孤立した地域で導入されました。

しかし皮肉なことにヤマヒタチオビはアフリカマイマイには見向きもせず、労せずして捕獲し食べることのできる現地の生物に矛先を向けます。

その結果、独特の進化を遂げてきた孤島の生態系は外来種によって大きく乱されてしまいました。

 

そんな生態系にとって絶望的な状況のなか、今から25年ほど前にZSLの無脊椎動物の研究者であるデイブ・クラーク氏率いるチームが、かろうじて生き残っていたいくつかのポリネシアマイマイを保護することに成功しました。

クラーク氏は貴重な種をイギリスに持ち帰り、ヨーロッパやアメリカをはじめとした動物園や飼育施設と協力して、ポリネシアマイマイの保護と繁殖を行う国際的な再導入プログラムを開始しました。

プログラムに参加した動物園や組織は最終的に16に達し、これまでに15,000匹ものポリネシアマイマイが故郷の地に帰ることができました。

ZSLは今年、「Partula rosea」と「Partula varia」と呼ばれる2つのポリネシアマイマイの種、4,000匹以上を現地に戻しました。

体長がほんの1㎝か2㎝しかない小さなポリネシアマイマイは、危機にさらされつつある地球の生物多様性にとって大きな希望の象徴となっています。

 

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ポリネシアマイマイの故郷への帰還が示す生態系復活の可能性

 

ポリネシアマイマイの一種 Image Credit:ZSL

 

ポリネシアマイマイが科学や地球にとって重要なのには理由があります。

それはダーウィンが孤立した島であるガラパゴスで独特の生態系に接し進化論の基礎を築いたことからもわかります。

 

ZSLの上級キュレーターであるポール・ピアース・ケリー氏は、ポリネシアマイマイは科学界にとって非常に貴重な存在であると言います。

 

ポリネシアマイマイは生態学的および文化的重要性に加えて、孤立した生息地の進化を研究するための完璧な条件を提供します。彼らはカタツムリ界のダーウィンフィンチ(※)です。

(※ダーウィンフィンチはガラパゴスにのみ生息する鳥でダーウィンが進化論を着想するきっかけになった鳥です)

 

ポリネシアの島々ではカタツムリは文化的にも重要でした。

人々はポリネシアマイマイの貝殻を使って装飾品を作り、また各島々の個体にはそれぞれ異なった特徴があったため、それらの貝殻は儀式の贈り物として重要な役割を果たしました。

またポリネシアマイマイは腐敗した植物を食べることで自然界のエコシステムにも貢献しています。

しかし独特の生態系はフランス人の入植と外来種の導入によって危機に瀕することになります。

“アフリカマイマイとその駆除のために導入されたヤマヒタチオビ”という構図は、ポリネシアだけでなく世界の孤立した地域の多くで見られた土地管理計画の失敗例です。

日本でもアフリカマイマイとヤマヒタチオビが小笠原諸島に導入され、同じように在来種を攻撃、捕食し生態系が破壊されました。

一度乱れた生態系は、孤立している環境だからこそ崩壊の速度が速く、またそれを元に戻すのは困難を極めます。

 

とっても小さいポリネシアマイマイ Image Credit:ZSL

 

ZSLが中心となって行われている「ポリネシアマイマイ保全プログラム」は、現在存続の危機に瀕している、特に人々からの関心が薄い動植物の保全に対し明るい未来を提示する好例です。

プロジェクトに参加しているイギリスのチェスター動物園の脊椎動物および無脊椎動物のキュレーター、ヘラルド・ガルシア博士は次のように述べます。

 

これらの動物が故郷に解き放たれるのを見るのはとても感動的な瞬間でした。私たちの惑星の生物多様性は脅威にさらされています。彼らは今や絶滅の危機にある小さな動物にとっての希望の象徴です。

 

またポリネシア政府環境局のプロジェクトマネージャーを務めるクリストフ・ブロシェリュー氏は、ポリネシアマイマイの再導入プログラムに非常に満足していると語り、「多くの種が存続の危機に瀕しているなか、献身的でやる気のあるチームによって今ではありがたいことにその脅威は制御されている」と、チームの貢献を高く評価しました。

 

再導入プログラムとしては世界最大規模である「ポリネシアマイマイ保全プログラム」は、過去5年間で合計14種類のカタツムリを故郷の土地に戻すことに成功しています。

彼らを絶滅寸前にまで追い込んだヤマヒタチオビは地道な駆除によって――完全ではないものの――ほとんどの島で見かけることはなくなりました。

プログラムは今後も続けられる予定で、最終的には保存している全ての種の再導入を目指します。

 

 

 


 

人間の都合によって生態系を破壊され、人間の都合によって再び故郷に戻されるポリネシアマイマイは、私たちに地球の多様な生物と環境についてもう一度考える必要があることを教えてくれています。

絶滅の一歩手前にいる動植物の数は想像以上に多く、それらが地球上から永遠に姿を消すのはもはや時間の問題です。

しかしそんな状況の中「ポリネシアマイマイ保全プログラム」は、乱れた生態系を人間の手で再び元に戻すことができる可能性を示しました。

 

今からでも遅くありません。

小さな動物たちに少しでも関心を持つことは地球の生物多様性を守ることにつながります。

 

 

 

 

References:ZSL,The Guardian

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