大型のネコ科動物は視線を嫌う ライオンの攻撃から牛を救った目玉模様

動物
(Gregory "Slobirdr" Smith/Flickr)

家畜を攻撃する肉食動物はアフリカの人々にとって常に悩みの種です。

被害を防ぐため、フェンスを設けたり毒薬を仕掛けたりといった対策がとられていますが、根本的な解決には至っておらず、人と野生動物との間には深い溝が存在しています。

こうした状況は、ライオンやトラなどの大型の肉食獣の減少にもつながっており、自然保護団体は家畜と野生動物の両方を守るためのアプローチを模索し続けています。

 

オーストラリアのニューサウスウェールズ大学と、ボツワナの保全組織「Botswana Predator Conservation (BPC)」が行った共同研究は、牛の体にペイントされた目の模様が、ライオンの攻撃を抑えることを発見しています。

相手の存在に気づいていることを知らせる目は、家畜を守るだけでなく、ライオン自体を人間の憎悪から遠ざけます。

 

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牛に書かれた目玉模様はライオンを遠ざける

 

ニューサウスウェールズ大学の生物学者であるニール・ジョーダン教授とその同僚、およびBPCの科学者で構成されたチームは、ボツワナのオカバンゴ・デルタで、肉食動物による家畜の被害について調査してきました。

広大な湿地帯であるオカバンゴ・デルタには多種多様な生き物が生息し、一部の地域は世界遺産にも登録されています。

デルタには人々の飼っている家畜を野生動物の襲撃から守るためのフェンスが設置されていますが、全ての動物に対して有効ではなく、大型の肉食獣やゾウなどは自由に行き来できる状態になっています。

 

チームはまず、主にどの肉食獣が家畜(牛)を襲っているのかを計測しました。

その結果、攻撃のほとんどはライオンによるものであることがわかりました。

調査期間中に襲われた牛は合計22頭で、その内訳はライオンが18頭、ブチハイエナが3頭、ヒョウが1頭でした。

 

ライオンやトラ、ヒョウといった大型の猫は待ち伏せ捕食者です。

気配を消して獲物が通りかかるのを待ち、その後一気に襲いかかる奇襲戦法は、彼らの狩りの成功に欠かせない要素です。

しかしこれは相手がこちらに気づいていないことを前提とした戦法で、うまくいかないケースも少なくありません。

実際大型の猫の種は、獲物に感づかれた場合狩り自体をあきらめてしまうことがあります。

チームはこうしたネコ科の特徴を考慮したうえで、牛の体に目玉をペイントし、襲撃の頻度が変わるかどうかを実験で確かめました。

 

牛の臀部に書かれた目玉模様 (Bobby-Jo Photography)

 

実験はライオンの襲撃を受けた地元の14の牧場で行われ、4年間で2,061頭の牛が対象になりました。

牛はそれぞれ、「人工的な目玉模様 (683頭)」、「シンプルなクロスマーク (543頭)」、「何もしない (835頭)」の3つのグループに分けられました。

 

調査期間中、目玉模様が描かれた牛がライオンに襲われることは一度もありませんでした。

次に効果があったのはクロスマークで、被害に遭ったのは4頭でした。

そして当然のように、何も書かれていない牛は期間中に15頭が襲われました。

これらの結果は、ライオンが視線に対して敏感であり、たとえそれが人工的に作られたものであっても効果的であることを示しています。

ジョーダン教授は、「被食者が目のパターンを使って捕食者を撃退するケースは、蝶や魚類、両生類、鳥類などでは一般的だが、哺乳類で確認されたのは初めてのことだ」と述べています。

 

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研究者は今回の結果が限定的であることを認めています。

期間中に目玉模様を書かれた牛は1頭も攻撃されませんでしたが、周囲にはそれ以外の牛も多くいました。

もし全ての牛に目玉模様が書かれていたとしたら、ライオンの攻撃が止まったがどうかはわかりません。

またライオンが目に慣れてしまう可能性も考慮する必要があり、長期的な有効性については今後さらなる検証が求められます。

ジョーダン教授は、「野生動物から家畜を守ることは重要かつ複雑な問題であり、牛に目を書くテクニックが全てを解決するわけではない」と説明しつつも、「この単純で低コストのアプローチが、農家の負担の軽減に役立つことを期待している」と話しています。

 


 

 

かなで
かなで

クロスマークも意外と効果があるんだね

せつな
せつな

牛のお尻に目があったらライオンでなくても警戒するのは必至……

 

References: The Conversation