持続可能な社会に向けた取り組みが食品業界で進む中、アメリカの新興企業が、世界的に需要が高まっているサーモンの培養肉の研究を始めています。
寿司ネタのみならずあらゆる料理に使われるサーモンは野生での数が減っており、食材として需要の高いタイヘイヨウサケ(アトランティックサーモン)の個体数は、1983年以降半減しました。
市場に出回るサーモンには、養殖由来のものも含まれますが、これらはその生育の過程において、水銀や寄生虫、マイクロプラスチックなどの微細な汚染物質を体内に宿すことがあります。
国連の報告によると、魚は世界で消費される動物性タンパク質の17%を占めるにもかかわらず、世界の魚資源の90%は、枯渇、乱獲、搾取といった危機にさらされています。
カリフォルニアの新興企業Wildtype(ワイルドタイプ)が生産する培養サーモンは、こうした問題に対する画期的な解決策として注目されており、様々な投資家や著名人が期待を寄せています。
切り身の状態を再現した培養サーモン
(Credit: Wildtype)
Wildtypeのサーモンは、ビール工場で使用される発酵タンクと同様のスチール製容器を使って培養されます。
サーモンの元となる細胞はタイヘイヨウサケの卵から抽出され、それらは栄養価の高い養液に入れられます。
さらに出来上がりの見た目をより本物に近づけるため、足場と呼ばれる植物由来のメッシュ(網目状の構造物)が使われ、最終的に細胞は4~6週間ほどで成長します。
培養により作られるサーモンは既に切り身の状態で、天然物のように皮をとったり、頭と尻尾を切り落としたりする手間は不要です。
また養殖の魚にみられるような、汚染物質の混入といった心配もありません。
Wildtypeは2022年2月、ジェフ・ベゾスの投資会社Bezos Expeditionsやシンガポールの政府系投資会社Temasek、また環境活動家でもあるレオナルド・ディカプリオやロバート・ダウニー・ジュニアの環境保護団体FootPrint Coalitionなど、多くの組織、団体から1億ドルの資金を調達しました。
現在同社は、施設の規模を拡大し、培養サーモンを市場に投入する最初の企業になるべく活動しています。
(Credit: Wildtype)
代替肉の市場は、環境保護への関心の高まりや、食にこだわる人からの需要もあり拡大しつつあります。
インポッシブル・バーガーやビヨンドミートなど、これら植物由来の製品は今後ますます一般的となり、市場で目にする機会も増えていくでしょう。
一方Wildtypeの培養サーモンは、タイヘイヨウサケの卵から作られています。
このような動物由来の人工肉は、味だけでなく、倫理や安全性の面で、当局および消費者に理解される必要があります。
現在、動物の細胞から培養した肉の販売を許可しているのはシンガポールだけです。
Wildtypeは培養サーモンの承認をめぐり、過去2年にわたって、FDA(アメリカ食品医薬品局)と交渉を続けています。
Wildtypeの創設者の一人ジャスティン・コルベック氏によると、現時点での培養サーモンの生産力は“ささやか”なもので、FDAが販売を認可したとしても、既存のサーモンに取って代わる規模になるには10年かかるだろうということです。
タイヘイヨウサケをはじめとした養殖の魚は、世界の食卓にとって重要な資源ですが、これらは管理された生産のために、抗生物質を投与されることがあります。
これは魚の薬物耐性に影響を及ぼすだけでなく、水の汚染や周囲の生態系にもダメージを与える可能性があります。
コルベック氏は、自社製品を最初に世に送り出したいと意気込む一方、豊かな環境を次の世代につなげるという長期的な目標も見据えています。
「このままでは多くの魚が2030年までに絶滅の危機に瀕するかもしれません。私には小さな子供が2人いますが、生物多様性が低く豊かでない世界を受け継がせたくはありません」

見た目は本物のサーモンだね

食べてみたいけど味がどうなのか気になるねー