鳥類保護を目的に活動しているNGOバードライフ・インターナショナルは、スペインで見つかったハゲワシの死体から、初めて「ジクロフェナク」が検出されたと報告しています。
鎮痛剤や湿布などで知られる非ステロイド性抗炎症薬「ジクロフェナク」は、動物、特に牛の治療にも使用されますが、死後の肉をハゲワシなどのスカベンジャーが摂取した場合、蓄積された成分が腎不全を引き起こし、死に至る場合があります。
ジクロフェナクは、南アジアに生息する「インドハゲワシ」、「ハシボソハゲワシ」、「ベンガルハゲワシ」の3種を、ここ20年で絶滅の淵に追いやっており、インド、パキスタン、ネパール、バングラデシュでは、獣医による使用が禁止されています。
今回死亡が確認された「クロハゲワシ (Cinereous vulture)」は、国際自然保護連合のレッドリストにおいて、準絶滅危惧種に分類されています。
ジクロフェナクの動物への使用は、現在スペインを含むほとんどのEU加盟国で認められています。
バードライフ・インターナショナルは2013年からヨーロッパ各国に対し、ジクロフェナクを規制するよう求めています。
ハゲワシの命を間接的に奪うジクロフェナク
ヨーロッパのクロハゲワシは、ほぼ全てがスペインに生息しており、2007年から、カタルーニャ地方で再導入および監視が行われています。
2020年現在の生息数は、15の繁殖ペアと61羽の個体のみです。
今回死亡したクロハゲワシは、2020年に生まれた若い個体で、9月に巣の近くで発見されました。
死体を剖検した結果、重度の内臓および関節の疾患が認められ、ジクロフェナクは、肝臓から1グラムあたり26.5ナノグラム、腎臓からは1グラムあたり51.4ナノグラム検出されました。
これはスペインおよびヨーロッパに生息するハゲワシ類の体内から、ジクロフェナクが検出された初めての例です。
バードライフ・インターナショナルのイヴァン・ラミレス氏は、「スペインで見つかった証拠は、悲しいことに、私たちが10年間警告してきたことを確認するものです」と述べ、ジクロフェナクは既に、ハゲワシの個体数に影響を及ぼしている可能性があると指摘しています。
ハゲワシは死肉を食べるスカベンジャー (Francesco Veronesi/CC BY-SA 2.0)
牛の治療に効果的な薬はジクロフェナクだけではなく、ヨーロッパには、安全で安価な代替品(メロキシカム)が既に存在しています。
バードライフ・インターナショナルの試算によると、ジクロフェナクを代替品に変更したとしても、農家の経済状況や家畜の健康管理に悪影響が及ぶことはありません。
ラミレス氏は、「野生の全ての鳥を監視しテストするのは困難です。安全な薬があるのなら、絶滅危惧種を殺す薬を認可し続けるのはばかげています」と述べています。
ジクロフェナクが禁止される以前のインドやネパールでは、ハゲワシの減少により野犬が幅を利かせるようになり、狂犬病のリスクが増大しました。
またカラスの個体数が増え、伝染病が家畜や人間に広がりました。
ハゲワシのような死肉を食べる種は、食物連鎖の重要な部分を担っており、生態系にとって欠かせない存在です。
バードライフ・インターナショナルは今後も、EU当局や、野生動物の保護を目的とした「ボン条約」の加盟国に働きかけ、ヨーロッパでのジクロフェナクの規制を求めていくとしています。
調査結果はScience of The Total Environmentに掲載されています。
クロハゲワシは、世界全体で4500羽くらいしか生き残ってないみたい
ジクロフェナクは他のハゲワシの種にも影響があるから、早く規制が進んで欲しいね
References: BirdLife International,The Guardian