「尿」と「AI」を使った野良猫駆除 オーストラリア・ティウィ諸島での取り組み

動物
(Kunal Mukherjee/Flickr)

オーストラリアの北に位置するティウィ諸島で、増え続ける野良猫を駆除するための新しい取り組みが行われています。

ノーザンテリトリーから80kmほど離れた、自然豊かな島々からなるティウィには、本土と同じように珍しい生き物が数多く生息しています。

ティウィやタスマニアなど、オーストラリアの島には独特の生態系が築かれていますが、長年にわたりそれらの脅威となっているのが野良猫の存在です。

ヨーロッパの開拓者が持ち込んだ猫は、独自の進化を遂げたオーストラリアの生き物を餌にするようになり、多くの在来種がその影響を受けてきました。

オーストラリア政府は国を挙げて野良猫退治に乗り出しており、本土では毒餌を使ったトラップなどが合法的に使用されています。

 

今回研究者グループと地元のレンジャーが協力し、野良猫の駆除に新たな方法を導入しました。

それは、「尿」と「AI」です。

 

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野良猫の生態を利用したワナ

 

チャールズ・ダーウィン大学の博士候補生であるジョージナ・ニーブ氏を中心としたチームは、ティウィの主要な島の一つであるメルヴィル島のレンジャーと協力し、「キャットウィーク (Cat Week)」と名付けた取り組みを開始しました。

これは様々な駆除方法を試し、どれが最も効果的なのかを知るための集中プログラムです。

野良猫はオーストラリアの野生生物にとって最大の脅威で、毎晩全土で約7500万匹の動物を殺し、少なくとも30種の在来哺乳類の絶滅に関与していると考えられています。

また野良猫は、他の野生生物やペットそして人間に病気を伝染させるおそれがあり、オーストラリアでは猫が媒介する病気の治療に、年間80億ドル以上が費やされています。

今のところメルヴィル島には在来種が多く残っていますが、野良猫対策を怠れば遅かれ早かれ種の喪失を招きます。

 

ティウィ諸島のレンジャーたちはこれまで、野良猫の被害を減らすために、鶏肉や魚を使ったトラップを試してきました。

しかしそれらはあまり効果がありませんでした。

その理由は、島に豊富に存在する「動く餌」です。

猫は生きた獲物が大好きで、家で飼われているペットでない限り、缶詰よりも、野生に生息する鳥や昆虫その他の哺乳類を好みます。

そこでチームは、野良猫の食欲ではなく生態や動きに着目しワナを検討することにしました。

一つ目に効果的だったのは、別の猫の「尿」を使ったワナです。

これは猫の縄張り意識の強さを利用したもので、ワナの檻に尿の匂いを付着させおびき寄せるものです。

ニーブ氏は、「猫は縄張り意識が強いので、他の猫の尿の匂いがあると檻のワナに入る可能性が高くなります。うちの縄張りにいるのは誰だ?中に入って見てみよう、というわけです」と述べています。

 

AIを搭載した毒噴霧器「フェリクサー」 (Credit: Thylation)

 

二つ目に効果があったのは、AIで制御された毒を噴霧するトラップです。

「フェリクサー (Felixer)」と呼ばれるワナは、カメラと人工知能を搭載したトラップで、範囲内にやってきた動物を瞬時に識別し外来種だけを狙い撃ちします。

フェリクサーはオーストラリア本土で既に実績のあるワナですが、対象が小さい場合、猫以外の動物を攻撃してしまうことがありました。

そこで新たにAIを搭載したバージョンが開発され、画像分析とデータベースのリンクにより、誤検知を最小限に抑えることができるようになりました。

これら二つのワナはキャットウィーク中に大きな実績を残しました。

 

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野良猫の駆除には地元の人々の理解が不可欠

 

ティウィ諸島における野良猫の在来種への影響については、いまだ研究が不十分です。

そこでチームはキャットウィークの期間中、捕獲した猫に衛星追跡装置を付けて放し、その動向を調査する実験を行いました。

また一部の猫は安楽死させられ、胃の内容物が分析されました。

ある体重3kgのメスの猫は、樹上で生活するフクロモモンガの一種「サバンナグライダー (Savanna glider)」を食べていました。

サバンナグライダーは過去30年で内陸部およびノーザンテリトリーで急速に数を減らしており、推移によってはティウィの個体群が最後の希望になる可能性があります。

この猫は他にも、9匹のヤモリと1匹のトカゲ、そして昆虫も食べていました。

こうした情報は、野良猫の好みや行動範囲を理解する重要な手がかりになります。

 

 

尿やAIを利用したワナは増え続ける野良猫を抑制し、在来種の保護に貢献する可能性があります。

一方でティウィ諸島では、本土に比べて本格的な駆除が行われておらず、今後の展開は、活動資金の確保や人々の理解といった問題に左右されます。

地元のレンジャーによると、現在活動時間の多くが外来種対策に費やされているものの、一部の地域では十分な理解が得られていないということです。

 


 

 

かなで
かなで

ワナで殺されるのは悲しいけど、野良猫が他の生き物を減らしてるのは事実なんだよね

せつな
せつな

オーストラリアには2000万匹以上の野良猫がいるから、駆除するのも一筋縄ではいかない……

 

References: ABC News,Thylation