核戦争が起こると大量の煤が空を覆い、地上の作物は育たなくなります。
これにより核戦争後の世界では食料不足が起こり、多くの人が食べ物を得るのに苦労するようになります。
太陽を遮る煤が作物の成長を遅らせるメカニズムについては、これまでにも論じられてきました。
一方で、もう一つの重要な“畑”である海が、核戦争から受ける影響についてはほとんど知られていません。
地上の食料が食い尽くされた後、海には人類を養えるだけの資源が残っているのでしょうか。
核戦争後の漁獲量は戦前の漁業管理によって変わる
アメリカやスペインの科学者チームは、核戦争が海の生態系や漁獲量に与える影響について知るため、最先端のコンピューターモデルによるシミュレーションを行っています。
地球システムモデルとグローバルな漁業モデルを組み合わせたシミュレーションでは、6つの戦争シナリオを使って、気候の変化と漁獲量の関係性を分析しました。
まず最初にはっきりしたのは、核戦争後10年にわたって地球が煤で覆われることでした。
これは地上での農作物の収穫を困難にし、人類の食料を得る機会を奪います。
海への影響も甚大でした。
アメリカとロシアによる核戦争の後では、世界の漁獲量が戦前と比べ最大で36%減少しました。
また戦争直前の漁業が適切に管理されていないケースでは、戦後1、2年の漁獲量が急激に増加し、その後最大で70%の減少が起きました。
これは戦前に行われていた乱獲が、戦後の資源の枯渇に結び付いたことを意味しています。
一方で、核戦争が起こる前の漁業管理が適切だった場合、海の資源は、地上で失われた農作物の最大78%をカバーしました。
分析では、アメリカとロシアの核戦争によって減少する漁獲量が、今世紀末に温暖化によって失われると予想される漁獲量と、ほぼ一致していることがわかりました。
戦争が起きても起きなくても、温暖化の影響を抑えることができなければ、世界の漁獲量は確実に減少します。
米国科学アカデミー紀要に掲載された研究の著者の一人であるバルセロナ自治大学のキム・シェラー氏は、「核戦争によって失われる漁獲量の大きさに驚いた」と述べる一方、「分析結果は、世界的な食糧危機の緩和に、効果的な漁業管理が役立つことも示している」と強調しています。
研究者は現在の漁業について、「既に乱獲や気候変動などの影響を受けているため、持続可能な方法で資源を管理する必要がある」と指摘しています。
戦争が起きなくても今の状態が続けば海の資源は減っていくんだね
温暖化と食料不足と核戦争……どれが来ても嬉しくない……
Reference: University of Colorado Boulder