イスラエルの新興企業「Aleph Farms」はロシアの3Dバイオプリンティング会社と協力し、ISS(国際宇宙ステーション)上で牛から取り出した細胞を元に牛肉を作り出すことに成功しました。
Aleph Farmsはプレスリリースの中で、9月26日にロシアの会社「3Dバイオプリンティングソリューション」が開発した3Dバイオプリンターを元に、牛肉の小規模筋肉組織を作ることに成功したと述べました。
宇宙空間で初めて誕生した牛肉は、牛から取り出した細胞に栄養素を与えそれらを増殖させることで作られ、最終的には完全なサイズのステーキへと成長しました。
この技術が広まれば近い将来、宇宙空間でステーキを食べることができるのはもちろん、人口増加がもたらす食料問題を解決する効果的な方法になる可能性があります。
宇宙牛肉は地球の環境と資源、そして人々を救う
Aleph Farmsは“養殖牛肉”を生産することで、牛肉生産にかかるコストを低減し世界の食料問題に貢献することを目指し活動している新興企業です。
今回ロシアの3Dプリント技術の会社と手を組みISSで行った実験は、牛肉生産がもたらす破壊的ともいえる資源の消費を抑え、温暖化による影響と世界の栄養問題に対し新しい解決方法を提案するものです。
3Dバイオプリンティングソリューションは今回の実験の成功に対し、宇宙で作られた牛肉は将来の長期有人宇宙ミッション中の宇宙飛行士の健康に役立つだけでなく、地球の人口増加に伴う食糧問題にも対処できる画期的な取り組みだと評価しています。
牛肉は世界中で消費される食材ですが、近年その生産にかかるコストについては厳しい目が向けられるようになってきました。
国連によると家畜の生産の際に排出される温室効果ガスは、他のすべての業種を合わせた全体の14.5%を占め、そのうち牛肉はその他全ての家畜の生産と合わせた排出量のうちの41%を占めています。
家畜の生産で排出される温室効果ガスは輸送部門が排出する量よりも多く、その地球温暖化に与える影響はもはや無視できないものとなっています。
Aleph Farmsはこうした家畜の生産――特に牛肉――の生産にかかるコストを削減し、本来の牛肉と変わらない品質のものを作り出そうとしています。
Aleph FarmsのCEO、Didier Toubia氏は、地球の環境にやさしい“屠殺を必要としないステーキ”を生み出したいと抱負を述べます。
宇宙では1キログラムの牛肉を生産するのに必要な10,000または15,000リットルの水がありません。この共同実験は、天然資源を保持しながら次世代の食料安全保障を確保するというビジョンを達成するための重要な第一歩です。
世界資源研究所(World Resources Institute)の7月の報告では、このままの人口増加が続くと2050年には地球の総人口が100億人を突破することになります。
それだけの人の食料を賄うためには、現在の牛肉の消費を、アメリカにおいては40%、ヨーロッパにおいては22%削減する必要があると報告書は結論づけました。
また食肉と乳製品の需要は70%近く上昇し、牛だけでなく、羊や山羊の肉の世界的需要が高まるとも予想しています。
温室効果ガスが地球に及ぼす影響と身近な食材である牛肉との関連については、一部の人たちが懐疑的な見方をしているのも事実です。
しかし人口増加が進んでいるのは確かなことで、それに伴う食糧不足は多くの人にとって想像しやすい現実的な問題です。
世界ではすでに将来の食料不足へ向けた対策が取られ始めています。
Image:2019 © Beyond Meat.
多くの企業が人々の栄養を守るために新しい食材を開発しています。
植物由来の成分で作られた代替肉はいまや特殊な食材ではありません。
それらを使ったハンバーガーは、マクドナルドやバーガーキングといった大手フランチャイズチェーンが採用しつつあります。
従来のものと比べ資源を消費しない商品を買うことは、消費者にできる最も確実な地球への貢献です。
Aleph Farmsが作った宇宙牛肉は今のところ市販されていませんが、3年ないし4年後をめどに市場に投入される可能性があるということです。
日本では植物由来の代替肉については、それらが議論に上ることさえほとんどないといっていい状況です。
値段の問題や味の問題、そして安全性などクリアしなければならない条件がある以上仕方のないことかもしれません。
日本でフェイクミートが浸透するには時間がかかりそうな気配です。
環境大臣の発言や気候変動に対する懐疑的な論調などメディアが騒がしい昨今ですが、それらはひとまず置くことにして、果たして宇宙牛肉が食料問題を解決するための糸口となるのか、今後のフェイクミート業界の動向から目が離せません。
References:CNN