近年の菜食主義への関心の高まりはペットフード業界にも及んでいます。
ペットフードから肉由来の成分が全て取り除かれた場合、地球の環境には確実に恩恵があります。
アメリカで行われた2017年の調査によると、ペットフードは毎年6,400万トンの二酸化炭素を大気に放出しています。
これは1,300万台の自動車から排出される温室効果ガスに相当します。
ペットフードは様々なものから作られており、特に成分の一つである肉の生産には多くの資源が使われます。
そのためペットフードが全て植物由来になれば、地球温暖化の進むスピードは減少します。
別の調査では、アメリカの犬と猫が消費する年間のカロリーは、アメリカ人6,300万人分のカロリーと同じという結果が出ています。
こうしたことからペットフードを植物性にするのは、決して悪いことではないように思えます。
飼い主のなかにはペットを、自分と同じような菜食主義にしたいと考える人もいます。
しかし犬や猫は本当に、肉を食べなくても生きていけるのでしょうか。
猫を菜食主義にするのは勧められない
ペットを菜食主義にすることに関しては様々な意見と議論があります。
しかし個人的な見解はさておき、ペットの福祉の充実を怠った場合、国によっては罪になることがあります。
イギリスの動物愛護法は、飼い主は動物に適切な餌を与えなければならないと規定しています。
英国獣医協会(British Veterinary Association)の代表者であるダニエラ・ドス・サントス(Daniella Dos Santos)氏は、「飼い主が個人的な信念から動物性タンパク質を摂らないのは問題ないが、そうした食事はペットの福祉基準を満たすようには設計されていない」と述べます。
猫は一定量のアミノ酸を必要とする肉食動物であり、それが不足した場合健康上の問題を引き起こします。
サントス氏は、ベジタリアンのメニューもヴィーガンのメニューも、ペットの食事として勧めることはできないと強調しています。
猫はタウリンなどの特定のアミノ酸を体内で作ることができません。
これらは通常、猫が好きな牛肉や鶏肉、魚などに豊富に含まれています。
タウリンの不足は拡張型心筋症と呼ばれる状態を引き起こし、血液の循環に悪影響を与えます。
アメリカ動物虐待防止協会(American Society of the Prevention of Cruelty to Animals)は
、拡張型心筋症は早期に治療が行われなれば致命的な病気であり、また猫は植物をうまく消化できないため、植物ベースの食事では猫が必要としているタンパク質を補えないと述べています。
猫を菜食主義にすることについては、この先も多くの議論が行われると予想されます。
イタリアのペットフード会社であるAmiなどは、猫のための完全菜食メニューを作っているものの、一握りを除くほとんどの獣医は、猫に肉のない食事を与えることに反対しています。
犬を菜食主義にすることは理論的には可能
(Jamie Street/Unsplash)
犬の場合は猫と少し状況が異なります。
犬の祖先とされるオオカミは肉を食べますが、彼らはビタミンが不足していれば、卵や果実だけでなく草でさえ食べることが知られています。
犬は猫と違い、植物のデンプンを消化できる能力を持っています。
この事実は、犬を菜食主義にすることが猫よりも容易である可能性を示しています。
英国獣医協会のサントス氏は、「理論的には犬を菜食にすることは可能かもしれないが、実際に行う場合は、獣医や栄養士の指導の元で行う必要がある」と述べています。
ドッグフードを植物由来にすることに挑戦している企業もあります。
アメリカの会社Wild Earthは菌類をベースにしたドッグフードを作っています。
2018の3月に立ち上げられた会社の創業者の一人であるライアン・ベテンコート(Ryan Bethencourt)氏は、従来のドッグフード業界が大量の二酸化炭素を排出していることにうんざりし、栄養的に完全でありながらも環境にやさしい持続可能なドッグフードを作ろうと研究を重ねてきました。
これまでのドッグフードは高タンパクの動物素材を使っているため、植物由来に変えた場合、同じだけのタンパク質を得るには工夫が必要でした。
現在販売されている製品は海藻を含むあらゆる植物由来の成分でできており、イースト菌や麹菌も入っています。
ベテンコート氏はドッグフードについて、「特に重要なのがイースト菌で、これにより良質のステーキを上回るタンパク質が得られる」と説明し、また麹菌が肉のうま味を再現することに役立っており、犬たちはこの味をとても楽しんでいると付け加えました。
新しいペットフードの素材として期待されるコオロギ
(aryokmateus/Pixabay)
世界のペット需要が高まるにつれ、ペットフードの消費量も増えています。
これは生産に伴う温室効果ガスの排出が増えることも意味するため、従来の素材を使わない新しいペットフードの開発競争が盛んになりつつあります。
アメリカのペットフード会社Chipinは、コオロギをベースにしたドッグフードを生産しています。
コオロギは既に人間の食料としても消費されており、国際連合食糧農業機関によると、コオロギなどの昆虫は非常に優れたタンパク質の供給源です。
コオロギの65%はタンパク質であり、他にも不飽和脂肪酸、食物繊維、ビタミン、ミネラルが豊富に含まれています。
創業者の一人であるヘイリー・ラッセル(Haley Russell)氏は、「コオロギは犬が必要とする10種類のアミノ酸全てを与えてくれる」と述べ、自分たちのドッグフードが健康的であり、また栄養価が高いものであることを強調しました。
コオロギは持続可能性においても大きな利点があります。
たとえば肉牛とコオロギを比較した場合、1グラムのタンパク質を作るのに必要な餌の量は、それぞれ8グラムと2グラムになります。
コオロギは牛と違い、生産の際に必要なスペースが狭く、また使われる水の量も少なくて済みます。
ラッセル氏は、コオロギの生産は温室効果ガスであるメタンを排出しないため、環境面においても非常に魅力的であるとし、将来的には同じ材料を使ったキャットフードの生産にも挑戦したいと意気込みを語っています。
ペットフードが作られるときに出る温室効果ガスの量は、もはや無視できないレベルになっている……
コオロギなんかの昆虫も含めて、ペットフードの成分が議論されるようになってくるかもしれないね
References: BBC