餌に向かって一直線!巧みなハンドルさばきで車を運転する研究室のネズミ

動物
Image Credit:Kelly Lambert/University of Richmond

様々な実験に利用されるネズミは人類の発展に大きく寄与してきました。

最近ではその底知れぬ知能に大きな関心が集まっています。

いまやネズミにとって車の運転など造作もないことです!

 

米国リッチモンド大学の研究室のネズミは与えられた課題に対し驚きの適応力を見せます。

ネズミのストレスに対する反応を調べる実験のためにネズミには特注の車が用意されました。

ネズミのために作られた特注の車には3つのレバーが取りつけられており、それぞれに触れることで左、真ん中、右と向きを変え車を進ませることができます。

 

実験では四方を壁に囲まれた空間に車を置き、壁の先には報酬となる餌を設置しました。

ネズミは餌のある壁に車でたどり着くことで報酬を得ることができます。

研究者はこの実験で、ネズミが目の前の課題に対しどう反応するのかや、新しいスキルを獲得した際にストレスがどう軽減されるのかを知ろうとしています。

ここで得られた知見は将来、空間認識能力と運動能力に関連するパーキンソン病や、動機や行動に関連するうつ病などの治療に役立つ可能性があります。

ネズミは私たちが考えている以上に問題に対し柔軟に適応することができます。

 

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餌を得るために操縦方法を覚えるネズミ――結果に対し満足感も

 

リッチモンド大学の神経科学者ケリー・ランバート氏とその同僚は、透明のプラスチック製の食品容器を使いネズミ用の車を制作しました。

車内に取りつけられた3本のレバーは、触れることで車の向きを変え前進することができます。

実験では初め、ごく近い場所に報酬となる餌を設置し、それから徐々に餌の位置を遠ざけていきました。

報酬を得るために巧みに車を運転しなければならない状況を作ることで、ネズミはストレスを感じることになります。

研究者たちはこの時のネズミの反応を知りたいと考えています。

 

 

最初の実験は狭い道で Image Credit:Kelly Lambert/University of Richmond

 

実験の最初の段階では狭い道を進むだけで餌に到達することができます。これはどのレバーに触れても車が向きを変えられるほど道幅が広くないことを意味します。(ボウリングの玉がガターを転がることを想像してみてください)

 

しかしその後は車が通れる範囲を広くすることで、ただレバーに触れるだけでは餌のある壁に到達することができないようにしました。

 

 

 

広い空間ではネズミは巧みにレバーを操作して餌にたどり着く  Image Credit:Kelly Lambert/University of Richmond

 

ネズミは最初は戸惑ったものの、次第にどのレバーに触れれば車がどちらに動くのかを理解するようになりました。

ネズミは餌の獲得の前に立ちはだかるこのストレス状態に巧みに適応しました。

 

ランバート氏は次のように述べます。

 

彼らはユニークな方法で車を操縦することを学び、最終的に報酬に到達するためにこれまで使用したことのないステアリングパターンを生み出しました。

 

ランバート氏は、実験に参加したネズミ計17匹(雄11匹、雌6匹)のうち、複雑な環境に住んでいたネズミはそうでないネズミに比べて早い段階で車の動く仕組みを理解したことも発見しました。

ネズミは退屈な研究室に住んでいたものもいれば、刺激的で複雑な環境に住んでいたものもいます。

この習得時間の差はランバート氏が「経験的資本」と呼ぶものの差であり、これまでの経験が新しいスキルの獲得に影響を与えていると推測されています。

 

また実験では新しいスキルを学び餌に到達したネズミがリラックスしていることも確認されています。

これは人間と同じように、ネズミが困難に打ち勝ったときに満足感を得ていることの現れです。

実際に実験後のネズミの糞からは、ストレスレベルを示すホルモンである「コルチコステロン」とストレスに対抗するホルモン「デヒドロエピアンドロステロン」の比率が増加していました。

ランバート氏は以前の研究でもストレス環境に置かれたネズミが問題を克服した際にストレスに関連するホルモンを分泌することを発見しています。

同氏は、ネズミは新しいスキルを得たときに人間でいうところの“自己効力感”と同じような満足感を得ているのではないか、と話しています。

 


 

ランバート氏はネズミが車を運転できるという発見は、ネズミの脳に「神経の可塑性」があることを示していると述べます。

神経の可塑性とは、脳が状況に適応し新しい考え方や技術などを学び獲得していくことを指します。

ランバート氏は「ネズミはほとんどの人が考えているよりも賢く、またほとんどの動物も同じように賢い」と語っています。

 

研究チームは今後さらにネズミの運転実験を行い、ネズミの脳のどの領域がストレスと関連しているのかを理解したいと考えています。

 

 

 


 

困難な状況に対処しそれを乗り越えるという経験は人をやる気にさせます。

これは特に現実感に乏しく自己評価の低いうつ病の患者にとって必要な処方箋でもあります。

餌のためという名目ではあるものの、ネズミが運転を覚え餌に到達できたという事実は、現実的で達成可能なタスクが人間を前向きにさせる可能性を示唆しています。

 


 

 

しぐれ
しぐれ

大学のロゴが入った特注の車がネズミさんにぴったりの大きさだね~

かなで
かなで

運転までしちゃうなんてネズミさんはスゴイ!

 

 

References:NewScientist